無差別テロを阻止せよ

 

コブレンツとドルトムントのローカル線の車内や駅で、発火装置付きのプロパンガスのボンベやガソリンの入った旅行カバンが見つかったというニュースを聞いて、ロンドンやマドリードで起きた凄惨な爆弾テロを思い出した。

ドイツで見つかった二つの爆弾は、幸い爆発しなかったものの、連邦検察庁は十分な殺傷能力があるという見方をしている。さらに、アラビア語のメッセージがカバンの中から見つかったことで、検察当局はテロ組織による犯行として捜査を進めている。

もっとも、犯人がイスラム過激派の犯行に見せかけて、検察庁の注意をそらすために、アラビア語のメッセージをカバンに入れた可能性もあるので、即断は禁物である。検察庁は、あらゆる可能性を視野に入れながら、慎重に捜査を行うべきだ。

ただし私は、イスラム過激派か極右勢力の犯行である可能性が高いと考えている。

まずドイツがイスラム過激派のテロ攻撃にさらされる危険は、残念ながら刻々と高まっている。ドイツはアフガニスタンで対テロ戦争を展開しているISAF(国際安定化部隊)に戦闘部隊を送っており、今年夏からはドイツ連邦軍が北部地域での作戦の指揮を任されている。9月11日事件から5年経った今も、アフガニスタンではタリバンの勢力は依然として衰えていない。今年8月1日から、アフガニスタンでの軍事作戦の指揮権は、米軍中心の連合軍から、NATO(北大西洋条約機構)に引き渡され、ドイツなどヨーロッパ諸国の責任はより重くなった。

このためイスラム過激派が、ドイツのアフガニスタン介入への報復として、この国で無差別テロを行う可能性がある。またイスラエルのレバノン攻撃をめぐり、当初メルケル政権が米国と共同歩調を取り、イスラエルに対する批判を控えたことが、国内のイスラム過激派の怒りをかい、テロに走らせた可能性もある。

さらに、ネオナチなど極右勢力によるテロの可能性も捨てきれない。近年、極右団体への警察の取締りが強化されたことによって、ネオナチにとってはデモなど公然とした活動はしにくくなってきている。このためドイツの検察当局は、数年前からネオナチが地下に潜行して、テロ行為に走る危険性を指摘してきた。たとえば2003年には、ミュンヘンの中心部に作られるユダヤ人のコミュニティセンターの起工式で、ネオナチが爆弾テロを計画していたことが明らかになり、7人の極右関係者が逮捕された。警察は犯人の自宅から、1・7キロもの爆薬を押収している。また2000年には、デュッセルドルフ郊外の駅で鉄パイプ爆弾が炸裂し、語学学校から帰宅しようとしていた、ロシア系ユダヤ人9人が重軽傷を負うという事件も起きている。

電車のような公共交通機関を狙った無差別テロは、政治とは全く関係ない市民を多数殺傷する可能性があり、最も卑劣な犯行である。連邦検察庁や警察、憲法擁護庁は情報交換を緊密にして、無差別テロの阻止に全力を上げてほしい。


週刊ドイツ・ニュースダイジェスト 2006年8月19日

 

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