米軍・ドイツ撤退の背景

ブッシュ大統領は8月中旬に行った演説の中で、欧州とアジアに駐留する米軍を7万人削減する方針を明らかにした。冷戦が終わった後、米軍がこれほど世界的な規模で海外に駐留する部隊を減らすことを決定したのは、初めてのことである。

東西対立が続いていた時代、西ドイツは、ソ連軍率いるワルシャワ条約機構軍に対峙する最前線にあった。このため、米軍は25万人もの大部隊をここに駐留させていたが、冷戦終結とともに、兵員数を徐々に減らしていき、現在では7万1000人となっている。

ブッシュ政権の決定によると、ドイツからはヴィースバーデンとヴュルツブルグに司令部を置く二個師団が撤退する予定で、将兵の数は約4万人に減らされる。撤退の最大の理由は、9月11日事件によって、米国に対する脅威の性格が根本的に変わったことである。

同時多発テロは、米国が一種の
NGO(非政府組織)に大規模な攻撃を受けた初めてのケースである。アル・カイダなどのイスラム系テロ組織は、領土も正規軍も持っていないが、そのメンバーは、インターネットや携帯電話などを駆使して、米国など各国の社会に潜り込み、地下活動を行うことが可能だ。かつての敵・ソ連軍以上に実態の把握が難しく、狂信主義に基づいて行動するため、自殺攻撃や民間人の無差別殺戮を行うことに、何のためらいも見せない。

実際には大量破壊兵器もないのに、イラクにあわてて侵攻したことが示すように、米国は放射能・化学・生物兵器を使ったテロを最も恐れている。つまり米国は、建国以来経験したことのない困難な戦争を行っているのだ。

現在米軍はイラクに14万人、アフガニスタンに1万人の将兵を投入しているが、「テロに対する戦い」が当初の予想通りにはスムーズに運ばず、長期化する様相を見せていることから、脅威の低いドイツや西欧から本土へ部隊を撤退させて、対テロ戦争の交代要員にあてるとともに、経費の削減を行うことにしたのだろう。

ドイツよりも中東地域により近い、ポーランドやルーマニアといった国々を基地にした方が、燃料や時間を節約することができる。

「ドイツがイラク戦争に反対して米独関係が悪化したことは、今回の決定とは関係ない」とシュレーダー首相は強調するが、ドイツ国内の主要基地の閉鎖が、米国とドイツの関係が新しい時代に入ったことを、如実に象徴していることは間違いない。

2004年9月10日 週刊 ドイツニュースダイジェスト