二月十七日にブリュッセルでEU(欧州連合)がイラク問題をめぐって開いた特別サミットで欧州諸国は、「戦争は不可避ではなく、外交的手段による危機の打開をめざすべきだ」としながらも、サダムフセインが国連決議に従わない場合の、最終的な手段として、戦争の可能性を排除しなかった。
EU諸国は、「イラクが国連の査察を受け入れたのは、米国が軍事力を行使するという圧力をかけたからである」として、この種の圧力なしには、イラクと交渉は難しいという米英の主張を、認めた。
共同宣言に加わったシュレーダー首相は、去年夏から貫いてきた「対イラク戦争反対」の姿勢を軌道修正したことになる。彼は、サミット後「コソボ危機でもそうだったように、武力行使が避けられない事態もある」と苦しい説明をしている。
ドイツは、NATO理事会でも妥協した。NATOは、イラクとの戦争が始まった場合のために、トルコに対空ミサイル配備や空中警戒管制機による偵察など、防衛準備を始めようとしていたが、ドイツはフランスとベルギーとともに時期尚早として反対していた。この問題で欧米同盟は深刻な危機に陥っていたが、ドイツは、二月十九日にこの反対も静かに取り下げた。
つまり、ドイツは直接イラク攻撃に参加しないが、周辺国への防衛措置など、間接的な支援を行うための第一歩を、目立たない形で始めたのである。表向きは平和主義的な発言で国民の支持をかろうじて保っているシュレーダーだが、EUの結束を犠牲にしてまで「ドイツ独自の道」を歩む気はないのだろう。イデオロギーよりも、現実政治の要請を重視するシュレーダーらしい決断である。
問題は国連安保理で米英がイラクに最後通牒を突きつける決議案を提出し、採決が行われる瞬間である。ドイツはEUサミットで、軍事力行使の可能性を排除しなかったのだから、反対票を投じれば孤立する。残された道はイエスでもノーでもない保留票を投じることだけかもしれない。
一方、EUサミット後にフランスのシラク大統領が、ポーランドやチェコなど米国支持の姿勢を示した中欧・東欧諸国に対し、「口を閉ざしているべきだった」と、あからさまに批判したが、これらの国々からはフランスの専制的な態度に対する強い不満の声が上がっている。
シラクが「東方拡大には国民投票でノーと言えるのだぞ」と脅しとも見える言葉まで使ったのは驚きだった。イラク問題は、東方拡大をめざすEUの結束にも深刻な亀裂を生じさせつつある。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2003年3月1日号掲載