2003年2月1日  週刊 ドイツニュースダイジェスト掲載

対イラク戦争と欧米関係の悪化

イラクの大量破壊兵器をめぐる議論は、米国と独仏の関係に、戦後最も深刻な亀裂を生じさせることになった。

国連の査察チームがイラクの核・生物・化学兵器について証拠を発見していないのに、米国がイラクに対する軍事攻撃を行うことに、ドイツとフランスは反対している。こうした中、米国のラムズフェルド国防長官が、一月末に「独仏は古いヨーロッパであり、彼らの態度は問題だ」「新しいヨーロッパに属する国々は、米国の側についている」と述べ、独仏を批判する発言を行ったことから、ドイツとフランスの政界や知識層の間から、米国に対する強い反発の声が上がったのである。

ラムズフェルドの軽率な発言は、不協和音が目立つ欧米関係をさらにかき乱すものであり、ブッシュ政権にとっても利益にならない。最近米国「タイム」誌のカバーストーリーで「対イラク戦争の立役者」とかつぎ上げられ、有頂天になっている官僚がつい本音を言ってしまったのであろう。いま欧州と米国にとって最も重要なことは、思ったことをすぐ口に出すのではなく、冷静さを取り戻して、相手がなぜ自分の立場に反対しているのかを分析することである。その意味でドイツのフィッシャー外相が「両方とも頭を冷やせ」と言っているのは、正しい。

いま世界にとって重要なことは、イラクが保有していると思われる大量破壊兵器を放棄させることである。イラク側の情報開示が十分でないことは、誰の目にも明らかだ。欧米が対立を深めて足並みの乱れを見せることは、サダムフセインの思うつぼである。イラクが大量破壊兵器を持っているという証拠を開示せず、国連軽視の傾向がある米国の突出ぶりには問題があるが、ドイツ政府の態度もほめられない。

独裁国家との交渉では、「拒否したら軍事力を行使する」という圧力を使わなくては、目的が達成できないことは、ボスニア内戦やコソボ戦争で証明済みである。戦争や兵器をめぐる交渉で、軍事力行使の後ろ盾がない外交努力は、張子の虎にすぎない。そのことを知っているはずのシュレーダー首相が、去年の夏の時点で「軍事攻撃には参加しない」と旗幟を鮮明にしてしまい、イラク側に欧米の足並みの乱れを予感させたのは、失敗である。

フランスや英国のように、「国連安保理の判断に従う」という原則だけを公表するべきだった。いわんやシュレーダーが、「仮に安保理が武力行使を決議しても、ドイツは参加しない」と発言したことは、国連軽視の態度であり、西側同盟の一員の言葉とも思えない。対イラク戦争をめぐる議論は、欧州と米国の関係を大きく変える、転回点となる可能性がある。