ドイツ通信4
ユーロという同じ通貨を使い、国境検査も次々に廃止している西ヨーロッパ諸国は、事実上一つの「国」を創設することをめざしている。
そうした中、今年1月15日にドイツのシュレーダー首相とフランスのシラク大統領が、パリで開いた首脳会談の結果、欧州連合(EU)の未来像について行った提案が、注目を集めた。両首脳は、この会談の結果、EUに二人の最高責任者を任命することを提案したのだ。
その内の一人は、現在の欧州委員会の委員長で、現在は委員長の選出過程が市民にはわかりにくいため、将来は欧州議会が多数決で選出する。もう一人は、各国首脳が構成している欧州理事会の理事長で、現在は半年ごとに交代しているが、一人の人物が最低2年半はこのポストを勤めることができるようにする。理事長は欧州理事会の選挙で選ばれるが、各国の首相や大統領を兼任することは許されない。この欧州理事会の理事長が、EUを代表する、事実上の「ヨーロッパ国」の大統領として、国際会議などに出席することになる。
また、シュレーダーとシラクは、外交問題や防衛問題を担当する「ヨーロッパ外務大臣」を任命することも提案している。この提案がEUによって最終的に採用されるかどうかは未知数である。しかし、EUの未来像について、これまで異なる意見を持っていた独仏が妥協し、一つの提案を行ったことは、欧州連邦の創設へ向けた、前進と評価できるだろう。これまでドイツが、「一つの政府、議会、大統領がEUを代表するべきだ」と主張していたのに対し、フランスは権力を一人の大統領に集中させるのではなく、EUはあくまで複数の政府の集まりとして機能するべきだと反論していた。このため、両国は欧州委員長と欧州大統領という二つのポストを、EUの最高責任者として提案することで合意したのである。
EUの諮問委員会は、今年末までに「欧州共通憲法」を起草することになっており、独仏の提案はこの憲法の中に取り上げられることが予想される。もっとも、欧州委員長と欧州大統領がどのように権限を分担するのかについては、はっきりしていないため、両者の権限を明確に定めないと、混乱が生じる恐れもある。これまでEUでは、安全保障をめぐる問題などをめぐって、各国の異なる利害を調整することが難航し、一枚岩の印象を外に向かって示すことができなかった。
欧州委員長と欧州大統領を、より民主的な過程を経て選出して、大きな権限を与えることを独仏首脳が提案した背景には、これまで以上に「ヨーロッパの意見」を一つに集約して、国際政治の舞台での影響力を増そうという、ヨーロッパ人たちの意図がうかがえる。
2000年にわたり戦乱と抗争に明け暮れてきた欧州で、連邦への求心力が増していることは、最近のニュースの中では数少ない、将来に希望を持たせる動きである。(ミュンヘン在住 熊谷 徹)
2003年2月14日 保険毎日新聞掲載