2001年1月25日  保険毎日新聞掲載


エキスポ大失敗

 

日本ではほとんど知られていないと思うが、今年ドイツでは万国博覧会が開かれていた。

北部のハノ−バ−という街で開かれたこの万博は、蓋を開けてみたところ客の入りがさっぱりで、テレビのコマ−シャルを流さなくてはならないほどだった。主催者は4000万人の入場者を見込んでいたのだが、実際に万博を訪れたのは、その半分にも満たない1800万人にとどまった。このため、主催者は28億マルク(約1400億円)という巨額の赤字を抱えることになった。万博の誘致に熱心だったのは、以前ニ−ダ−ザクセン州の首相だったシュレ−ダ−連邦政府首相で、この赤字は州と連邦政府が負担することになる。

入場者数が伸び悩んだ最大の原因の一つは、入場料の高さ。約70マルク(日本円に換算すると円高のため3500円にすぎないが、購買力を加味すると7000円に近い)を払った上に、パビリオンに入るのに3時間も並ばされるというのでは、よほど忍耐強くなくてはなるまい。またパビリオンの賃貸料も高かったので、環境団体などNGOは出展できず、出展団体は国家や企業に限られてしまったようだ。

私は1970年に大阪で開かれた万国博覧会に行ったが、今と違って外国旅行が庶民には高嶺の花だった当時、日本にいながら外国の雰囲気を味わえるエキスポ70は、私にとって夢の国だった。30度を超える暑さの中、コンクリ−トジャングルを歩かされた両親には気の毒だったが、アポロ11号が持ち帰った月の石や、ソ連の宇宙船、全天全周映画、外国料理の出るレストランでの食事は、小学生の私には楽しかった。

それから30年経った今、われわれ庶民にとっても簡単に外国へ旅行できるようになった。このような時代には、わざわざ万博に行って外国を体験しようという人は、少なくなったに違いない。特に旅行好きのドイツ人は、アフリカでもアジアでも、自分で計画してどんどん行ってしまう。それに自然が好きなドイツ人は、休みがあれば人工的な展示会で長蛇の列に並ぶよりは、海岸や山荘でのんびり過ごす方を選ぶと思う。

エキスポを見てきた私の知人の間にも、あの高い入場料を出しても見る価値があると手放しで万博をほめる人は、一人もいなかった。ドイツの有名な経営コンサルタント会社が、主催者に知恵をつけて、民間活力の利用に力点を置いたというが、少なくとも財政面では、ハノ−バ−万博は大失敗だったと言わざるを得ない。(熊谷 徹・ミュンヘン在住)