金融資産のリスク回避傾向を強めるヨーロッパ人

 

 ドイツ人の間には、「90年代後半の株価バブルの崩壊で、かなり損をして株はもうこりごりです」とこぼす人が少なくない。火傷を負ったヨーロッパ人たちは、金融資産をどのような形で持っているのだろうか。

* 低リスク商品に人気集中

ニュールンベルグの市場調査機関GKカスタム・リサーチが、ウォールストリート・ジャーナル欧州版とともに毎年6ヶ月ごとに公表している、市民の投資動向調査によると、2004年秋の時点では、西ヨーロッパ市民の52%が、定期預金などの最もリスクが低い形式を選んでいる。二番目に人気があるのが生命保険や投資ファンドで、39%の人がこうした商品を購入している。

米国では投資をしている市民の60%が株式を持っているのに対し、ヨーロッパでは株式投資の人気は低い。今回の調査によると、株式投資を行っている人の割合は、18%にすぎない。これは、GKがアンケート調査を始めた、2002年の春に比べて、株を持っている人の割合が、31%から13ポイントも下落したことを意味している。西ヨーロッパでは、米国に比べると、「ロー・リスク・ロー・リターン」(利益が少なくても、リスクが低い方が良い)と考える人が増えていることが、はっきりわかる。

* 低い金融資産

また、ヨーロッパのほとんどの国をおおっている不況を反映して、「全く貯蓄や投資を行っていない」と答えた人の割合は、過去半年の間に6ポイント増えて、30%に達している。ちなみに、「金融資産が5万ユーロ(675万円)以上ある」と答えた人の割合は、米国では50%だったが、西ヨーロッパでは15%にすぎなかったほか、ドイツでは、たった7%、フランスでも8%にすぎなかった。

勤労者世帯の平均貯蓄額が1000万円を超える日本にお住まいの皆さんには、信じられないくらい低い割合に見えるのではないか。だが税金や社会保険料が高く、手取り所得が日本に比べると低いヨーロッパでは、人々は洋服や靴などにお金をかけないし、外食をする人も少ない。

ドイツには学習塾がないし、大学もすべて無料なので、教育にかかる費用も少ない。彼らが比較的お金をかけるのは、旅行と住宅くらいで、全般的に日本人に比べると、つましい生活をしているように見える。

* 背景には手厚い社会保障

ドイツやフランスで貯蓄や投資をしていない人が多い最大の理由は、これまで公的年金や健康保険、失業保険など社会保障制度が比較的充実していたため、貯えをする必要が少なかったということである。社会保障が独仏に比べるとはるかに手薄な米国では、人々が投資によって資産の拡大を図らざるを得ないのとは対照的である。実際、ヨーロッパの中では比較的社会保障サービスが少ない英国では、金融資産が5万ユーロを超えると答えた人の割合は25%と独仏よりも高くなっている。

*ドイツ人は株が嫌い

さて、西ヨーロッパ諸国の中でも、特に安全性を重視する傾向が強いのが、ドイツ人だ。GfKの2001年の調査によると、株式を保有している回答者の割合は、わずか9%。これに対し、58%の市民が「リスクが少ない」という理由で定期預金などの銀行預金を選んでいた。

また生命保険を購入する市民の割合が、46%と高いのもドイツの特徴である。回答者の内、4人に1人が「生命保険が最も重要な投資手段」と答えている。

* 生保商品に根強い人気

ドイツでは、生命保険会社が逆ざや状態に陥って、事実上破綻するなど、ここ数年は業界全体が厳しい経営環境にあった。それにもかかわらず、ドイツ保険協会(GDV)によると、この国の生命保険業界は、2001年からの2年間で、約50億ユーロ(6750億円)、つまり8%の増収を記録し、676億ユーロ(9兆1260億円)の収入保険料を達成した。このことは、マスコミの生保業界についての悲観的な報道にもかかわらず、貯蓄をする余裕のある市民の中には、相変わらず生命保険を選ぶ人が多かったことを示している。

もう一つの興味深い現象は、この2年間で大手生保社のマーケットシェアが、目立って拡大しているということだ。業界トップのアリアンツ生命のシェアは2001年に13・3%だったが、2003年には15・1%に上昇。

第二位のハンブルグ・マンハイマ−生命も、市場占有率を4・6%から4・9%に増やしている。これに対し、業界のランキングが第11位以下の生命保険会社では、シェアが減ったり横ばいになったりしている企業がほとんどである。

* 生保にも厳しい選択眼

また、業績が良い生命保険会社にも、顧客の人気が集中している。たとえばWestLB銀行の調査によると、2003年のROE(自己資本利益率)は、アリアンツ生命で16・99%、業界第9位のデベカ生命で9・35%だったが、両社ともに2001年からの2年間にマーケットシェアを増やしている。

特にデベカ生命は、慎重な運用政策で知られており、株価バブルが膨張していた時にも、投資ポートフォリオを固定金利型の預金など、リスクが低い商品に絞り、ほとんど株式に投資していなかったため、他社に比べると、株価の下落による評価損で大きな傷を受けなかった。

同社は、ドイツの保険会社の格付けを行っているマップ・レポート社から、アリアンツ生命と並んで最高位のmmmの格付けを得ている。これに対し、
ROEが急激に減っている生保には、マーケットシェアが下落している企業が目立つ。

* 商品比較情報誌の長い伝統

戦後のドイツでは、保険に限らず、商品の質や価格、利点などを比較する情報サービス雑誌が日本よりも発達し、消費者に広く利用されている。保険契約者も、金融市場が大きく変動する時代には、こうした情報誌を積極的に利用し、投資リスクが少ない会社を選んで生命保険商品を購入する傾向が強まっているものと見られる。

単に「寄らば大樹の陰」ではなく、
ROEのように財務状態を敏感に反映する指標によって、生保社を選ぶ市民は、今後もますます増えるものと予想されている。

ベストプランナー 2005年2月号