2000年4月14日   保険毎日新聞掲載

ギリシャの覇気

 

日本の読者の皆さんはギリシャというと、まずアクロポリスの上にそびえるパルテノン神殿などの古代遺跡や、ミロのビ−ナスのような優美な彫刻を思い出されるのではないだろうか。

ところが、今のギリシャがどうなっているのかについては、あまり知られていないと思う。二000年前には西欧文明の揺籃の地となったギリシャだが、現在では欧州連合で最も貧しい国の一つである。通貨同盟に入るための基準を満たすことができなかったのも、EU加盟国の中でギリシャだけだった。

ところが、ここ数年ギリシャ経済はえらく元気がいい。ユ−ロ導入の試験にただ一人落第した汚名をそそぐために、シミティス首相がインフレを抑制し、財政赤字を削減する政策をとったことが功を奏したのだ。

たとえば、一九九一年には十九・五%だったインフレ率は、昨年二・三%まで下がった。また財政赤字が国内総生産に対して占める割合も、一九九四年には十三・二%だったが、昨年にはわずか一・五%まで下げることができた。

政府がインフレを防ぐために、ガソリンや乗用車にかかる税金を下げたにもかかわらず、財政赤字が減っているのは、景気が良いために企業の収益性が改善しており、その面からの税収が増えたためと見られている。事実、一九九四年には一%前後だった経済成長率は、九九年には三・五%に達し、EUの平均を上回るまでになった。また公共工事や住宅建設ブ−ムのために、建設業界の施工金額も毎年十%ずつ上昇している。

二00四年に開かれるアテネ・オリンピックを前に、地下鉄や空港、高速道路など、これまでは劣悪だったインフラの整備も進んでいる。国営企業の民営化や、規制緩和にもこれから拍車がかかる見通しである。優良企業が次々に株式を公開しているため、証券取引所も活況を呈している。

現在の経済状態が続けば、今年六月に開かれるEU首脳会議で、ギリシャの通貨同盟への参加が正式に決定され、来年一月一日からユ−ロが導入されることは、ほぼ確実な情勢である。この国の通貨ドラクマは、しばしばマルクやポンドに比べて弱かったため、ギリシャ人の間では、ユ−ロの導入に賛成する市民が多い。誇り高いギリシャ人たちの雪辱の日は刻一刻と近づいているのだ。(熊谷 徹・ミュンヘン在住)