イラク戦争とガダフィ大佐の改心

 テロ支援国家として米英から非難されていたリビアの指導者・ガダフィ大佐が、去年の暮れに、「大量破壊兵器(WMD)の開発を中止し、国連の査察を受け入れる」と表明したことは、イラク戦争が世界中の孤立国家に対して、大きな心理的圧迫となっていることを示している。

実際、リビアは
IAEA(国際原子力機関)の幹部にウラン濃縮施設への訪問を許したほか、核拡散防止条約の追加議定書に調印して、IAEAの予告なしの査察も受け入れる方針を明らかにしている。この背景には米英の当局者が、9月11日事件以降、リビアと秘密の接触を繰り返し、WMDを放棄するよう圧力をかけたことがある。リビアと同じく同じ「ならず者国家(rogue state)」と見られてきたイラクは、大量破壊兵器があるという確たる証拠もないのに、圧倒的な軍事力を持つ米英軍に侵攻され、サダム・フセインは失脚して虜囚の身となった。これを見てガダフィ大佐は「明日はわが身」と思ったのかもしれない。

リビアは、スコットランド上空でのパンアメリカン航空機爆破事件、ベルリンのディスコ爆破事件など、欧州を舞台にした様々なテロ事件に関与したため、ガダフィ大佐は米英の諜報関係者から「中東の狂犬」という異名をつけられていた。米国のブッシュ政権は、リビアに
WMDの放棄に同意させるという副作用を生んだとして、イラク戦争にはプラスの効果があったと強調し、今後はイランと北朝鮮への圧力を強めるに違いない。

一方イラクでは、
WMDの探索にあたっていた米国のISG(イラク調査グループ)の一部が撤収を開始したことがわかった。このことは、米国の当局者の間でも、WMDは見つからないという意見が強まっていることを示している。米国のシンクタンク、カーネギー国際平和財団も、1月8日に公表した報告書の中で「イラクのWMDは米国への直接の脅威と呼べる段階にはなく、米国政府は脅威を誇張した。戦争だけが唯一の選択肢ではなく、国連の査察を続けるべきだった」とブッシュ政権を批判している。

脅威に関する証拠がなく、国連安保理の決議がなくても、主権国家に対して「予防戦争」を実施してしまう米国の力の論理を、国際社会は許容するべきではないだろう。

週刊 ドイツニュースダイジェスト 2004年1月17日