トルコ紀行9 イスラム市場のパワー
イスタンブールの旧市街、市電のベヤズィット停留所の付近はすさまじい喧騒である。
大きなカバンやビニール袋を抱えたトルコ市民が歩き回り、バスやタクシーの運転手が渋滞にしびれを切らせて、クラクションを鳴らす。
混雑の原因は、停留所の北側にイスタンブールで最大の市場カパル・チャルシュがあることだ。
アーチを多用したアラブ風の門から内部に入ると、貴金属、スカーフ、絨毯(じゅうたん)、骨董品などを売る店がひしめいている。
人ごみにもまれながら歩いていると、商人たちが日本語で「どこからきたの?」と話しかけてくる。
天井を見上げると、イスラム教の寺院のように屋根が丸くなっている。まるで迷路のように道が入り組んでいるので、気をつけないと迷子になってしまう。
これだけ似たような商品を売っている店が並んでいて、果たして生き残れるのかなと、いらぬ心配をしてしまう。トルコ人の商人たちは、すました顔で小さなコップに入った紅茶をすすっている。
中東諸国の市場はスークと呼ばれる。私はエルサレムの旧市街、東部のアラブ人地区で昼なお暗いスークに足を踏み入れたことがある。
イスタンブールの市場はエルサレムのスークよりもはるかに明るく、安全そうな印象を与える。ここはヨーロッパに近いのだ。
グランド・バザールとも呼ばれるこの市場は面積が31ヘクタールもあり、3300軒の商店が入っている。
64本の道、22個の門があるというから、小さな町のようなものである。この場所にはすでにビザンティン帝国の時代から市場があったが、1461年にコンスタンチノープル(イスタンブールの旧名)を征服したオスマン・トルコのメフメット2世がアラブ風のスークを設置。18世紀ごろには現在のバザールにほぼ近い形まで拡張された。
新市街に向かうガラタ橋の南側、市電のエミニェニュ停留所の近くに、石造りのL字型の建物がある。
エジプト・バザールと呼ばれるこの市場には香辛料や薬草、菓子を扱う店が多い。中に一歩足を踏み入れると、サフランやカルダモン、紅茶などの香りに包まれる。オレンジ色、黄色の香辛料が砂丘のようにうず高く積まれている。
白いさいころ型の羊羹のように見える、目が飛び出しそうに甘いトルコ菓子もたくさん売られている。これらのバザールはイスタンブールの活気を味わうにはもってこいの場所と言えるだろう。
(文と絵・ミュンヘン在住 熊谷 徹)
保険毎日新聞 2009年2月