ブルガリア紀行(7)EUへの期待
東欧の旧社会主義国の中でも、ブルガリアほど市場経済への移行が遅かった国はない。

社会主義時代からの高層住宅は多くが修理されることもなく、気の毒なほどの状態である。

眺めがいいにもかかわらず、上層階に空き家が多いのは、水道水をくみ上げるポンプが機能しないため、住民が引っ越してしまったらしい。

失業率は13.5%と高い。

また市民の13%が貧困状態で暮らしている。

労働人口は、農業が26%、工業が31%、サービス産業が43%と、まだ農業に従事する人が多い。

地方では、取り壊すお金もないのか、大規模な工場があちこちに荒廃した姿で残っている。

共産主義の崩壊で、
120万人分もの職場が失われたというが、1990年以降、国外へ移民する人の数は増えるばかりで、80万人が祖国を去っていった。

もっぱら人材不足となっている状況だ。

行き先は、他のバルカン半島諸国が多いが、米国、カナダ、アルゼンチンに移住する人も多い。

それでもブルガリアは1996年から翌年にかけて、ちょっとした好況を経験した。

それまでの財政状況があまりにも混乱していたため、IMF(国際通貨基金)との合意で経済改革を行い、貧困と失業対策に乗り出したことが功を奏したようだ。「すごい不動産ブームでね」と、飛行機で隣に座ったドイツ人ビジネスマンが得意そうに言う。

最近は、ドイツ企業は慎重で、チェコやハンガリーなどに出遅れたイタリアの企業やギリシャの企業が、ブルガリアへの直接投資に熱意を示している。

しかし、国内経済の30%が“闇経済”と言われている。

組織犯罪については、誰もがその存在を知りながら口をつぐんでいる状態。

いまだ共産主義時代からのコネが根強く、組織より個人的つながりが重要視されるという。

「ジャーナリストも“狼が怖い人は森に行かない”ということを知っていて、突っ込んだ取材ができない」と、ある役人が言う。

EU(欧州連合)は、調査報告書の内容を受けて、ブルガリアがまだEUに入る準備ができていないと、加盟の決定を10月まで延期した。

それに対して、ブルガリア側は、最近の財政黒字と成長率の上昇を強調している。

おそらくブルガリアは、2007年1月にEU加盟を果たすであろう。

EUはルーマニアも加え、来年には27カ国の大所帯になる予定である。(この項・了)

(文・福田直子、絵・熊谷 徹)

保険毎日新聞 2006年7月