EU誕生から50年

「欧州連合によって、我々の前の世代の夢は現実になりました。ヨーロッパ市民は幸いなことに、一つにまとまっています。我々は次の世代のために、この幸福を守らなければなりません」。EUの議長国であるドイツのメルケル首相は、3月25日にベルリンでこう言った。

EUの基礎を作ったローマ条約の調印から50年目にあたる今年、記念式典で、加盟国首脳は「ベルリン宣言」を採択した。

 数々の戦争が繰り返されてきた欧州は、過去2000年間で最も平和な状態にある。

特に欧州を分断していた鉄のカーテンが、1990年代の初めに崩壊してからは、欧州諸国は敵も紛争もないという幸運を享受している。

メルケル首相が言うように、その中で
EUが果たした役割は大きい。EUの母体は、不倶戴天の敵だったフランスとドイツが中心となって構成した、欧州鉄鋼石炭共同体である。鉄と石炭は、戦争遂行に欠かせない。これらを共同で管理し、生産量をお互いに監視することで、戦争が再発するのを防ぐのが狙いだった。

 2002年にはドイツやフランス、イタリアなど主要国で統一通貨ユーロが導入された。

通貨同盟に加わる国は、通貨政策に関する主権を国際機関である欧州中央銀行に譲り、財政赤字や公共債務などを減らす努力を迫られる。各国は安全保障の面でも協力を深めており、ドイツやフランスは危機管理の際に投入する「欧州緊急展開部隊」を合同で創設している。

むりやりソ連の支配下に置かれていたポーランド、チェコ、ハンガリーなどの中東欧諸国も
EUに加盟し、欧州の運命共同体に仲間入りした。欧州は、各国の主権の一部を国際機関に預けることによって、グループとしての利益を享受することを重視している。

その意味で、欧州は事実上の「連邦」の方向へ長期的に向かっているということができる。

 メルケル首相が重視しているのは、欧州憲法の採択である。

欧州憲法プロジェクトは、草案がフランスとオランダで行われた国民投票で否決されたため、暗礁に乗り上げている。欧州憲法は、25の加盟国・5億人の人口を持つ
EUが効率性を高め、意思決定を速やかに行うために、不可欠である。

しかし市民の間では「欧州憲法は、産業の空洞化をもたらすグローバル化の象徴」という先入観が広がっている。

このためメルケル首相は「ベルリン宣言」の中で「憲法」という言葉は使わずに、「2009年までに
EUは新しい基盤となる条約を締結する」ことを提唱した。

EUが果たして憲法制定作業を再び軌道に乗せることができるか、大いに注目される。

(文と絵・ミュンヘン在住 熊谷 徹)筆者ホームページ http://www.tkumagai.de