パパもたっぷり育児休暇
「育児休暇のために、10月1日から6ヶ月間にわたり会社を休みます」。知り合いのドイツ人男性がこう言った。
サラリーマンが半年も育児のために会社を休むというのは、日本ならばあまり耳にしないことである。
2007年1月に施行された法律によって、ドイツ人の両親たちは、これまでよりも安心して育児のために会社を休むことができることになった。
育児休暇の期間は、最高3年。この間、政府が企業にかわって手取り給料の67%を「両親援助金」として支払う。ただしこの援助金には1800ユーロ(27万円、1ユーロ=150円換算)の上限が設けられている。
企業はその人のポジションを確保することを法律で義務づけられる。このため休む側にとっては、雇用について不安を持つことなく育児に専念できるという利点がある。
ドイツでは多くの女性が育児休暇制度を利用していた。しかし父親が育児休暇を取っても、その間の給料は払われないので、収入が大幅に減った。このため育児休暇を取る男性は全体の5%にすぎなかった。
政府は新しい制度の導入により、収入の大幅な減少を防ぐことができるので、長期間休職して育児を行う父親が増えることを期待している。
企業は、育児休暇を取っている社員のポストを維持し、その人が職場復帰する時には、休暇前と同じポジションを与えなくてはならない。
社員が育児休暇を取ると、チームに欠員が出るのに新しい社員を採用してはならないので、他の社員の仕事が増えることになる。
このため育児休暇を取るというと、良い顔をしない上司もいるようだ。しかしこれは基本的に労働者に政府から認められた権利なので、制度を利用する男性は少しずつ増えている。
ドイツの出生率は1・3前後で、毎年生まれる子どもの数よりも死亡者の数の方が多くなっており、人口は年々減少している。出生率が低い原因の一つは、子どもが生まれると仕事を続けることが難しくなることだ。
特にキャリアウーマンの間では、子どもを作らない人が多かった。ドイツではこれまで託児所の数が不足している上に、大半の学校では授業が半日で終わってしまうので、子どもを育てながら企業で働くことは容易ではなかった。このためドイツ政府は託児所も大幅に増設する計画を進めている。
これらの計画がドイツの人口減少に本当に歯止めをかけるかどうか、注目される。
(文 熊谷 徹 ミュンヘン在住)筆者ホームページ http://www.tkumagai.de
保険毎日新聞 2008年掲載