脂肪との戦い

日本のマスコミで頻繁に取り上げられるメタボリック・シンドローム、つまり体重オーバーは、ドイツでも大きな問題となっている。

ある統計によると、ドイツに住む男性の67%、女性の53%が太り過ぎとされている。

子どもの15%が、すでに体重オーバーの状態にある。太り過ぎかどうかを示す
BMI指数の国際比較によると、ドイツの太り過ぎの市民の割合は、欧州連合(EU)の中で、最も高かった。糖尿病や腰痛に悩む市民も増えている。

私はドイツに17年間住んでいるが、確かにここ数年、米国で見かけるような、体重オーバーの市民をドイツで目にすることが以前よりも増えた。その最大の理由の一つは、肉を主食とする市民が多く、野菜や果物の消費量が日本に比べるとはるかに少ないことだろう。

スーパーマーケットに行けば、肉の価格が日本よりもはるかに安く、野菜や魚の値段がはるかに高いことに気がつく。このため、所得が少ない市民ほど、肉を多く食べることになる。

ハンバーガーやソーセージ入りのパン、デナー・ケバブなどのファーストフードが普及していることも、肥満増加の原因だ。

1990年代の後半以降、ドイツは深刻な不況に襲われたため、食事を安価なファーストフードで済ます人も増えたのだ。さらに、ドイツにはビールが好きな人が多いが、これまたメタボリック症候群に拍車をかける飲み物である。

さらに、あらゆる職場で1日中コンピューターの前に座っている仕事が増えたため、身体を動かす機会は減る一方だ。

このためドイツ連邦政府は、2020年までに太り過ぎの市民の数を減らし、子どもの肥満をなくすための、行動計画を今年5月にスタートさせた。

具体的には、学校で健康な食生活と、運動の重要性について指導したり、全国で公園やサイクリングコース、運動場を整備したりする。

さらに、政府はレストランや鉄道の食堂車、旅客機などで、野菜中心の献立を増やすように、企業に対して働きかける。

また、EUは、食料品の栄養価、脂肪、卵白、炭水化物などの量の表示を義務づけていないが、ドイツ政府は域内全体でこれらのデータの表示を義務づけるよう、欧州委員会に求める方針。

ドイツ政府は、「欧州一のメタボリック国家」の汚名をはらすことができるだろうか。脂肪との戦いは、まだ始まったばかりだ。

(文と絵・ミュンヘン在住 熊谷 徹)筆者ホームページ http://www.tkumagai.de

2007年5月保険毎日新聞