東の女性は一味ちがう

「東の女性のほうがきれいだ」東ベルリンに住むある友人がこう言っていた。偏見かもしれないけれど、私も同意見である。

 共産圏が消滅する以前も、旅行で立ち寄ったソ連、ポーランド、ハンガリー、チェコ、東独の街角では、物資が少ないにもかかわらず、きれいに着飾った女性をたくさん見た。

女性たちは手製と思われるかわいらしい洋服を着ており、幼い女の子たちは、よくきれいなリボンを髪に付けていた。 

ベルリンの壁崩壊からはや15年。当時、10歳だった子供は今、25才。

旧東独の新世代は、就職のチャンスを求めて西側に引っ越している。

 ベルリンから北西へ車で約二時間。ぺール家の二人の娘たちも西側に引っ越した。

一家が住むシュベリーンの街の失業率は20%であるから、仕事を見つけるには、仕方ない決断であった。

21才の末娘は大学生で、28才の長女はハンブルクで弁護士をしているという。

ぺール夫妻は、まだ47才と49才と若い。ん? 一体、何才の時に結婚したのだろうと、逆算してみる。長女は妻のザビーネさんが19才の時の子供。サビーネさんの母親は現在、66才というからこれまた驚きである。

母親は6人の子供を育てながら、仕事を持っていた。

 二代続けて19才で子供を産むことは、東独では決して珍しくなかった。

というのも、労働力が不足していた東独では、女性が働くことがあたりまえで無料の保育園も完備していたからだ。東独では90%以上の女性が働いていた。

ドイツでも日本でも少子化が大問題になっているが、社会の受け入れ態勢が完備してさえすれば、事態はちがっていたはずである。少子化が「働く女性が増えたため」と一方的に信じこんでいるうちはこの問題への糸口はみつからないだろう。

 さて、東独で子供時代を送った新世代は、消費生活にどっぷりつかって育ったグループとは少し違う。

物が少ない頃、育つというということはそれなりに幸福かもしれない。物を大切にするし、物がすべてであるとは考えない。

これは日本で昭和ひとけた世代に育てられた世代にも、当てはまるのではないだろうか。

 「私たち東の女性は、少し違う」という自負を彼女たちは持っている。

ファッションでも、旧西ドイツとは異なり、女性らしさを表現している。

さらに「東の女性はクールで楽観的」という自信がある。

もっとも、19才で子供を産むなどということはもはや考えられなくなってしまったのだが……。

(文・福田直子 絵・熊谷 徹)

保険毎日新聞 2004年10月13日