移民と教育問題

ドイツに住んでいる日本人の駐在員の間には、子どもの教育問題で悩んでおられる方も少なくない。

特に中学生の年齢になると、日本人の語学力では、なかなかドイツの授業についていくことができず、おいてけぼりを食ってしまうことがあるのだ。

ある日本人は、子どもをバイエルン州の小学校に入れようとしたら、ドイツ語が話せないという理由で断られたそうだ。

このため、妻と子どもは日本へ返して、お父さんだけドイツに単身赴任というケースがよく見られる。

今やドイツの人口の9%は外国人であり、ベルリンやミュンヘンなどの大都市ではその比率は20%から25%にものぼるのだが、ドイツは移民を教育によって社会に統合させるという努力が十分でなかったようだ。

そのことを示すデータが、今年5月に発表されてドイツの教育関係者に衝撃を与えた。


OECD(経済協力開発機構)はドイツやアメリカなど、移民が多い国17ヶ国について、移民の子どもたちの学力を比較した。

この結果、ドイツで生まれた移民のこどもは、母国で一時期学校に通って、両親とともにドイツにやって来た子どもよりも、数学などの学力が大幅に劣ることがわかった。

ドイツ同様に大きな学力の差が見られるのは、デンマークとベルギーだけだった。

特に家庭でドイツ語を話さない移民の子どもは、15歳の時点で、ドイツ人の子どもよりも数学の学力が3年も遅れていることが明らかになった。

移民の子どもたちを、教育を通じて社会に溶け込ませるのは、親だけでなく政府の課題でもある。

OECDの調査結果は、ドイツがこうした努力を、世界で最も甚だしく怠ってきた国の一つであることを意味している。

ドイツは1960年から1970年の高度経済成長期に、労働力が不足したため、トルコ、イタリア、ユーゴスラビアなどから多数の移民を受け入れた。

政府は家族の呼び寄せにも便宜を図ったために、ベルリンやフランクフルトなど一部の都市では、トルコ人が共同体を作り、ドイツ語ができなくても十分生活できるようになっている。

このため、10年以上ドイツに住んでいても、あまりドイツ語が話せない外国人も少なくない。

こうした家庭の子どもは、家ではトルコ語しか話さないので、なかなかドイツ語が上達せず、学校の授業に遅れてしまうのかもしれない。

OECDが2000年に起こった国際学力比較試験でも、ドイツの子どもは読解力、数学などの成績が、全体の20位前後で、上位の韓国、日本、フィンランドなどの足元にも及ばなかった。

今後この国の教育関係者は、生徒の学力を引き上げるための努力に、本腰を入れざるを得ないだろう。

(文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)

保険毎日新聞 2006年5月