イラン攻撃はあるのか

 
中東をめぐる雲行きが、再び怪しくなってきた。

しかも、今回は日本にとっても重要な産油国イランが、台風の目である。

私が住んでいるドイツでも、日に日に市民の不安感が高まりつつある。

「イスラエルを地図の上から抹消するべきだ」などの過激な発言で知られる大統領、アハメディネシャド氏に率いられて、イランは高濃縮ウランの製造など、核兵器の材料に転用できる技術開発を積極的に進めている。

ドイツなど欧州諸国は、数年前からイランに対して、核技術の研究を、軍事転用が不可能な領域に限るよう求めてきたが、アハメディネシャド氏は聞く耳を持たず、外交努力も水の泡となった。

4月には初めてウランの濃縮に成功したと発表している。

この問題が国連の安全保障理事会に付託され、仮に安保理がイランに対する経済制裁などを決議しても、同国は軍事転用できる核技術の開発をやめないだろう。

イランが核兵器を持とうとする理由は、いくつかある。

まずアメリカが9・11事件以降、安全保障政策を大きく変えて、大量破壊兵器を持っているという確実な証拠がなくても、戦争をしかけて政権を転覆するようになったことである。

ブッシュ大統領から、イラクや北朝鮮とともに「悪の枢軸」と名指しされたイランは、イラクの二の舞にならないように、核抑止力を持とうとしているのだろう。

さらに、イランが敵視しているイスラエルは、すでに核弾頭を数百発保有していると見られている。

このためイランも核武装をすることで、将来戦争になった時に、敵を抑止しようと考えているのかもしれない。

 ブッシュ大統領が、「イラン問題については、いかなる選択肢も排除しない」と言っているように、国防総省に対してイラン攻撃の様々なシナリオを検討させていることは、間違いない。

イラク侵攻の時も、ブッシュ政権は1年以上前から統合参謀本部に対して、綿密な攻撃計画を策定させていた。

 しかしさすがの米国も、今回はイラクの時ほど簡単には、武力行使には踏み切れないだろう。

米軍はアフガニスタンとイラクで地上戦を続けており、特にイラクではシーア派、スンニ派、クルド人による内戦の危険が高まっている。

大量破壊兵器を発見できなかったブッシュ政権は、米国将兵の死傷者が増え続けると、国内での不満が高まる可能性が強いので、ベトナムで行ったように、治安維持をイラク軍に任せて、駐留軍の規模を減らす以降だが、具体的なめどは立っていない。

このため最も可能性が高いのは、空爆によって核関連施設を破壊することだが、そうした施設が地下に作られている場合、完全に破壊することは難しい。

さらに、イランが報復としてイスラエルに弾道ミサイルを発射したり、イラクのシーア教徒に、米軍への蜂起を命じたりする可能性もある。

いずれにしても、中東を覆う暗雲が今後再び濃くなっていくことは、間違いないようである。

(文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)
保険毎日新聞 2006年5月