ドイツ・クスリ事情

ドイツでは、日本に比べると、薬局で処方箋なしに買える薬が圧倒的に少ない。

せいぜいアスピリンとか、ビタミン剤、後は認知症防止に良いとされるイチョウの葉を使った、自然の生薬などだろうか。

この国では、医薬品に関する安全を重視する伝統があるので、薬は主に医者が処方したものを買うということになっているのだ。

日本の薬局へ行くと、処方箋がなくても買える大衆向け医薬品の種類の多さに、目がくらくらしてしまう。日本には薬局のチェーン店がたくさんあるが、ドイツには一つもない。

ドイツでも社会の高齢化によって、医療費特に医薬品への支出が急増している。

2005年には、公的健康保険がカバーした医薬品のための支出は、前年に比べて16・8%も増えて、234億ユーロ(約3兆6972億円)に達している。

このため連邦政府は、公的健康保険の医薬品支出を減らすことをめざしている。

去年5月1日から施行された、「医薬品支出削減法」は、製薬業界と薬局には、凶報である。

この法律によって、ジェネリック医薬品(特許が切れた薬の製法をコピーして、後発企業が製造した医薬品)の値段は、10%引き下げられた。

さらに、薬局が製薬会社から受け取った無料の薬を、患者に販売することは禁止された。

薬価は二年間にわたって凍結される。また、患者に高価な薬を優先的に処方する医師は、診療報酬の一部カットなどの制裁を受ける可能性がある。

 政府はこの法律によって、医薬品への支出を、毎年13億ユーロ(約2054億円)減らすことをめざしている。

 こうした強制措置によって医療支出が削減されているため、欧米では製薬会社の合併が相次いでいる。新薬の開発コストが巨額になることから、製薬会社は、合併によって規模の経済を達成することを求められているのだ。

医療費削減の圧力が高まっているために、製薬会社にとっては大衆向けの新薬を開発して、大ヒット商品のパテントを取ることが、ますます重要になっている。特に、心臓疾患、高血圧や糖尿病、花粉症などのアレルギーの治療薬の開発に、各社とも力を注いでいるようだ。

先ごろ英国の医薬品チェーン店がドイツのザールラント州に店を出し、処方箋なしで買える薬を大幅に増やそうとしたため、地元の薬局などの強い反対にあった。ドイツの医薬品小売市場に外国の薬局チェーンが、殴り込みをかけてきたわけだ。今後もドイツでは、大衆向け医薬品をめぐる攻防が激しくなるだろう。

(文と絵・ミュンヘン在住 熊谷 徹)

保険毎日新聞 2007年3月