ドイツ・引越始末記(1)

 ドイツ人には、倹約家が多い。

引越しの際にも、ほとんどの人は引越し業者に頼まず、自分でトラックやバンを借りて、友人たちとともに家具や荷物を運ぶ。

その理由は、ドイツでは人件費が高いので費用がかさむことである。

また、ほとんどの人は家財をそれほどたくさん持っていない。

しかし私はNHKで働いていた頃も含めると、25年間にわたって物書きをしている。

いくらインターネットが発達していても、本や記事を書くには、資料が欠かせない。

ミュンヘンのアパートには、11年間住んだ。

私の配偶者も大手出版社で働いた本の虫で、今も定期的に記事を発表している。

このため、2人合わせて2000冊近い本、雑誌、取材ノート、資料ファイルがたまってしまった。

私が住んでいるアパートは、日露戦争の年に建てられたものなので、エレベーターがない。

大量の資料を、アパートの3階から自分で運んでいたら、引越しに何ヶ月かかるかわからない。

このため、運送会社に荷物の運搬を頼むことにした。

事前に段ボール箱を受け取り、資料や本を詰め込んだ。その数は、200個を超えてしまった。

我が家を下見に来た引越しのプロは「1日ではむり。2日はかかりますね」と判断。

10月23日は、雪が舞う肌寒い天気だった。

午前7時15分に、2台の中型トラックが到着した。

この地域では、車を路上に停める人が多い。

数日前に引越し会社は、警察の許可を得て「10月23日と24日の午前7時から午後5時は、駐車禁止」の標識を立てていた。

トラックが到着したのに、まだ停まっている車があった。

引越し会社は直ちに携帯電話で警察に通報。数分後に警察官が到着して、駐車違反をしたドライバーに罰金の支払命令書を手渡した。

さすが、法律と規則、罰金の国である。

運送会社は、7人の筋肉りゅうりゅうの男たちを送ってきた。

本や資料ファイルが詰まった段ボール箱は、コンクリートの塊のように重いが、彼らはひょいと担いで階段を降りていく。

重い戸棚やベッドのマットレスも、顔を真っ赤にして、1人で運ぶ。重い物を持つのが苦手な私は、「人間にはこんなに力があるのか」と感心してしまう。(続く)

(文と絵・ミュンヘン在住 熊谷 徹) 

保険毎日新聞 2007年12月掲載