過疎化する旧東ドイツ?

東西ドイツが統一されてから16年も経っているのに、東側から西側に移住する人は後を絶たない。

旧東ドイツに投資する企業が少ないために、雇用が増えないことが最大の原因である。

1990年以来、旧東ドイツを去った市民の数は、150万人に達している。

BMWやポルシェなどが新しい工場を建設し、比較的経済状態が良いザクセン州ですら、去年人口が2万2500人減った。

統一以来ザクセン州を離れた人の数は、実に64万人に達する。ザクセン州の人口が430万人であることを考えると、これは大変な減少である。

このほか、250万人が住んでいるザクセン・アンハルト州でも、去年人口が1万2600人減り、人口が170万人のメクレンブルク・フォアポンメルン州からも、7000人が西へ移り住んだ。

特に旧東ドイツの将来にとって深刻なのは、若くてやる気があり、教育水準が高い人ほど、西側へ移住する傾向が強いことである。

たとえば、去年メクレンブルク・フォアポンメルン州を去った若い女性の60%が、大学を卒業したかそれと同等の教育を受けていた。

旧東ドイツから西側へ移住した人のうち、失業していた人は、全体の14%にすぎない。

若者たちは、「旧東ドイツで経済状態が良くなるのを待っていたら、いつ良い仕事につけるかわからない」と考えて、ミュンヘンやハンブルクなど、旧西ドイツの大都市に移住するのだ。

ドイツ政府は、毎年GDP(国内総生産)の5%にあたる資金を、旧東ドイツに注ぎ込んでいる。

それでも経済状態が大幅に改善しないことから、経済学者の間には「旧東ドイツへの経済支援は、より選択的に行うべきではないか」という意見が出始めている。

このため、旧東ドイツの若者たちの西側への移住は、当分続くものと予想されている。

現在のままの状態が継続すると、メクレンブルク・フォアポンメルン州の人口は2020年までに、17%減少すると予想されている。

同州には、今後15年間で、人口が3分の1減ると見られている地域もある。

ドイツは出生率がヨーロッパで最も低い国の一つだが、旧東ドイツでは若者の流出のために、今後住民の平均年齢が上昇し、出生率が大幅に下がるものと予想されている。

現在でも、男性100人に対する女性の数は82人というように、男女のバランスが崩れ始めている。

このままでは、大都市を除けば、長期的に見て旧東ドイツが過疎地域になる可能性もある。

統一直後に、当時首相だったコール氏は、「旧東ドイツは花咲く野原のように栄えるだろう」と予言したが、この見通しは完全な空振りに終わってしまったのである。旧東ドイツ出身のメルケル首相すら、匙を投げているように見えるのは、残念である。

 

(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)

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