ポーランドの味覚
中東欧の素朴な料理を味わうには、ポーランドはもってこいの国だ。
この国の主食は肉であり、豚肉や牛肉のステーキは安い。
付け合わせとしては、お隣のドイツに似て、ジャガイモがよく使われる。
豚肉を焼いたものならば、10ズロチで食べられる。
旧西ドイツの3分の1の値段だ。日本円にすると、500円くらいだろうか。
勿論、洗練された料理とはいえないが、旅の空腹を満たすにはこれで十分だ。
美味しいと思った料理に、ビートという赤い根菜を使った、真っ赤な色のスープがある。
「ボルシ」と呼ばれるが、ロシアのボルシチとはやや異なる。
固くゆでた卵や、ゆでたシュウマイのようなものを入れて食べる。
また、「ペルメニ」という、水餃子かラビオリに似た料理もある。
中には、ひき肉やキノコが入っている。同様の料理は、ロシアにもある。
ポーランドは中欧の国なので、その料理にはドイツやフランスとは一味違った、スラブ風の食習慣の影響が感じられる。
750年の歴史を持つ、ポーランド南部の古都クラコフには、100年以上前に建てられた古いビルの中庭を利用したレストランが、たくさんある。こうした中庭に一歩足を踏み入れると、表通りの喧騒がぴたりと遮断され、静かな空間が広がる。
まだ修復が進んでいないのか、壁土が剥がれ落ちて、内側のレンガの壁が露出している。アパートのベランダに人々が置いた植木が、花を咲かしている。中庭には高い木が植えられて、ツグミがさえずっている。
こうした情景を見ながら食事をしていると、社会主義体制の崩壊とともに急速に姿を消しつつある、「かつての古色蒼然とした中欧」の雰囲気が、よみがえってくる。
さて先日クラコフの町を歩いていたら、ある店の前で客たちが、30メートル近い行列を作って辛抱強く待っていた。
社会主義の時代には、消費物資が不足していたために、食料品店などの前で行列を見るのは、当たり前だった。
だが今は資本主義の時代。商店には、西側同様に物があふれている。
それなのになぜこんな行列が?
よく見ると、「LODY」(ポーランド語でアイスクリーム)の看板が。
しかも、「伝統的な製法で作りました」と書かれている。
客が6人立つと満員になってしまうような小さな店なのだが、すごい人気である。
私も20分くらい並んで、アイスを買った。
1つの球が1・6ズロチ、およそ87円である。苺の粒々がはいったアイスクリームは、確かに、工場で大量生産される製品とは違う、懐かしい味がした。クラコフは、ポーランドでもアイスクリームが最も美味しい町として知られているのだ。
行かれたら、是非ご賞味下さい!
(文と絵・ミュンヘン在住 熊谷 徹)
保険毎日新聞 2007年6月