ドイツ版・郵政民営化
去年日本で行われた総選挙では、郵政民営化が最大の争点だった。
私が住んでいるドイツでは、郵政事業は一足早く民営化が終わっている。
ドイツ郵政省の郵便事業部門が株式を公開したのは、2000年。
郵便貯金部門も、2004年に株式を公開し、ドイツで唯一の個人顧客だけを対象にした銀行ポストバンクとして、生まれ変わった。
顧客の目から見ると、民営化の前と後で大きく変わった点は、窓口でのサービスが良くなり、郵便局も整備されて明るい雰囲気になったということだ。
以前はいかにもお役所という重々しい雰囲気の郵便局が多かった。たとえば小包は専用の窓口でしか受け付けてくれなかったが、今ではどの窓口でも小包を送ることができるようになった。
また民営化後は、郵便局で封筒やガムテープ、ファイルからグリーティングカードまで売り始め、まるで文房具店のような雰囲気である。
郵便局の一部を喫茶店として開放している所もある。
民営化されて郵便料金が安くなったという実感はない。
ただし外国向け小包では、日本と違って船便が廃止され、航空便かSAL便しかなくなった。
SAL便は日本から船便を送るのとほぼ同じ値段なので、早く着くという利点はある。
民営化後、郵便局は、宅急便の会社を買収した。
このため、主な郵便局の近くには、休日や夜間でも小包を発送したり、受け取ったりすることができる、
無人の宅急便取り扱いステーションができたのも、進歩といえば進歩である。
しかし我々利用者にとって困ったことは、郵便を投函するためのポストの数が減ったことである。
以前は、町の至る所に黄色いポストがあったものだが、民営化後、その数がどんどん減らされて、今ではポストがあるのは、郵便局の前と鉄道や地下鉄の駅の近くだけである。
郵便物の回収をより効率的に行うためだろう。
また、郵便局自体が閉鎖される例も増えており、お年寄りや身体が不自由な人には不便である。
電子メールの発達により、伝統的な郵便への需要はますます減るに違いない。
ドイツの郵便事業が今後いっそう効率化を迫られることは確実であろう。
ちなみに日本では郵便貯金と財政投融資の関係が大いに議論されたが、ドイツでは郵便貯金を公共事業など別の用途に回すことは許されていなかったので、郵便貯金事業を民営化しても、建設業界などに悪影響が出ることは全くなかった。
(文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)保険毎日新聞 2006年1月25日