欧州の禁煙ブーム

先日ミュンヘンのビアホール「ホーフブロイ・ハウス」に食事に行ったら、禁煙コーナーがあったので、驚いた。

米国とは違って、以前のドイツ特に酒場では、禁煙席など考えられなかったからだ。

欧州では毎年60万人が、喫煙によると見られる病気で死亡している。各国政府が、健康保険制度の改革を行い、医療費削減に努める中、タバコによる健康被害を放置するのは、矛盾しているという意見が強まっているのだ。

EU(欧州連合)は、2005年3月から禁煙運動を支援し、子どもを間接喫煙から守るためのキャンペーンを始めた。

 ノルウエー、アイルランドに続いて、2005年1月からは、イタリア政府も、公共施設だけでなく、レストラン、バーでも喫煙を完全に禁止した。

フランスでも今年2月1日から、病院や空港など公共の建物が禁煙になったほか、来年1月からはレストランやディスコ、喫茶店からもタバコが締め出される。

警察官が注意しても、市民が喫煙をやめない場合には、68ユーロ(約1万2000円)の罰金を取られる。

企業は職場での喫煙を禁止することを求められ、喫煙は専用の部屋に限られる。


「ゴロワーズ」や「ル・ジタン」などの銘柄で知られるフランスですら、カフェでタバコをくゆらせることが禁じられるとは、時代の流れを強く感じる。

スペイン、英国、デンマークでも同様の措置が検討されている。

 ドイツでも、近くレストランや公共の建物での喫煙が禁止されるが、この法律に酒場やディスコを含めるかどうかについて、議論が行われている。

去年末にはタバコの宣伝を禁止する法律によって、映画館のコマーシャルや雑誌の広告から、タバコが姿を消した。

かわりに映画館では、タバコを吸っている父親が、幼い娘の口からモクモクと紫煙が出てくるのを見てぎょっとするという禁煙コマーシャルが流れている。

欧州では、タバコのパッケージに「喫煙はあなたを殺すかもしれません」という警告が、黒々と大書されている。

日本のタバコの注意書きよりも、はるかに直接的な表現である。

 ドイツでは、今や喫煙者は少数派だ。

1955年には男性の83%が喫煙していたが、2005年の喫煙者の割合は33・2%に下がっている。2004年のタバコ消費量は、前年に比べて16%減った。

 1940年代から1950年代に製作された米国映画では、ハンフリー・ボガートなど大スターが、格好良くタバコを吸っている。

今見ると奇異な感じを持つが、しばらく経つと欧州でも、タバコは前時代の遺物と見られるようになるだろう。

(文と絵・ミュンヘン在住 熊谷 徹) 

保険毎日新聞 2007年4月