アル・カイダの狙いは?
2001年9月11日の同時多発テロ以降、米国ではアル・カイダやイスラム過激派に関する本が、洪水のように出版されている。
その中でも最も注目を集めた物に、「Imperial Hubris(帝国の傲慢)」という本がある。
筆者名は公表されていなかったが、22年間にわたりCIA(中央情報局)の分析官を務めたマイク・シューアーであることがわかっている。
本人は、ブッシュ大統領再選後にCIAを退職した。
彼は、「欧米は、ビン・ラディンなどイスラム系テロリストの意図を十分読み切れていないので、テロとの戦いに敗れつつある」と断言する。
彼によると、ビン・ラディンが米国を攻撃する理由は、米国の民主主義や社会制度ではなく、米国が第一次湾岸戦争で軍をイスラム教のメッカがあるサウジアラビアに駐屯させたり、イスラエルを支援したりすること、またアフガニスタンに進駐したことである。
つまりアル・カイダは、米国のイスラム圏への進出に対して反撃しているのだという。
ビン・ラディンにとっては、米国が行っていることは、ちょうどソ連のアフガニスタン侵攻と同じだというのである。
彼はソ連や英国がかつてアフガニスタンの支配に失敗したように、米国および同盟国がアフガニスタンを平定し、民主化するという企図についても、きわめて悲観的な見方をしている。
そして筆者は、欧米にとって危険なことに、イスラム教徒の中には、「ビン・ラディンが米国に一矢を報いたことに共感を抱く」人々が少なくないと主張する。
彼は、バリ島やマドリードでアル・カイダが爆弾テロを行ったのは、米国を支援する国々への警告だとする。
ビン・ラディンにとっては、欧州が米国の対テロ政策に批判的であることが望ましいので、これ以上欧州での大規模テロは行わないと予測する。
同時多発テロのような事件をドイツやフランスで起こせば、これらの国々が米国側に回り、対テロ戦争を今以上に支援する可能性が強いからだ。
ただし米国を積極的に支援しているオーストラリア、ポーランド、日本については、アル・カイダが大規模なテロを行う危険があると警告している。
本の題名からもわかるように、筆者はブッシュ大統領の対テロ戦略やイラク侵攻に批判的である。
そうした人物がCIAからどんどん去り、イエスマンばかりが政府に残るのは、やや心配である。
(文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)
保険毎日新聞 2005年4月6日