夏は「バルコニアン」生活!
「まあ、随分、日焼けされていますねえ。バカンスはどちらへ?」
「どこへも行きませんでした!」と答えれば、この人はおそらく「バルコニアン」。
なんだか宇宙人のようなこの呼び名だが、バルコニアンとは、自宅のべランダで日光浴をしながら夏休みを過ごしている人のことをさす。
しかし、同情したり憐れんだりしてはいけない。
誇り高きバルコニアンたちは幸福をかみしめているのだから。
「どこにも行けないのではなく、行けるけれどあえて家にいるのが好き」なのである。
これは本音か強がりか。ドイツのバルコニアンには二通りある。
まず、普段、出張ばかりしているため、家にいる時間が少ない人。
若いうちは出張はスリリングで、あたかも自分が世界の中心にいるかのごとく、鼻高々である。
昨日はロンドン、来週はNY。
実際は、空港からホテル、オフィスへ、そしてまた空港からオフィスへ、の繰り返しであろう。
少し年をとってくると、「あー、自宅でたまにはのんびりしてみたい!」と思うのである。
別の種類の「バルコニアン」は家が好きにはちがいないが、「節約したい」組といえる。
旅行も結構、エネルギーのいる作業で、大枚はたいて出かけてみてもイメージの中のパラダイスとの間には、ずれがある。
それならば自宅でゆっくりしたいではないか。
「バルコニアン」に関するテレビ番組を見たら、ある女性が建てた四階建てのゴージャスな家の庭には、泡がぶくぶく出てきてリラックスできるジャグジー・プールもある。
朝起きたらまずプールでくつろぐ。
そして近くの友人が訪問してきて一緒に太極拳を。その間、お手伝いさんがきて掃除をしてくれる。
朝の運動をした後は、おもむろにブランチをとって、ベランダでハンモックに横たわり本を片手にうとうとする。
もちろん、雨よけのためにガラスの屋根もある。
午後は犬の散歩がてら買い物。夕方はまた庭に出てくつろぎのひととき……。
自宅から車で三十分ぐらいの郊外に小さな庭つき別荘を持っている人もいる。
「庭別荘」には小さなキッチンと浴室もあるので宿泊もできる。
もっとも“元祖バルコニアン”は、たいてい市内に住み、朝から夕方まで、自宅の小さなバルコニーで日光浴をする。
しかし、これが結構、やってみると心休まる。
中には「外で寝ると気持ちがよい」とバルコニーに寝袋を引っ張り出して眠る人もいる。これは古来、自然と背中あわせで生きてきたゲルマン人だからできることか。
お金の節約になり、心も安らぐ。バルコニアン生活は現代人の「癒し」なのかもしれません。
(文・福田直子、絵・熊谷 徹)
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2004年9月10日