こんなに違う英独仏

ひとくちにヨーロッパと言っても、実際に住んでみると国民性は千差万別である。

ロンドンなどに駐在されて、欧州諸国を訪れられた方ならば、ヨーロッパが実はモザイクのように様々な文化や伝統が集まった地域であることを、ご存知かもしれない。

ドイツやオーストリアなど、ドイツ語圏の国で感じることは、人々が清潔や環境保護をとても重視しているということだ。

ホテルや民宿だけでなく、公衆トイレまで清潔なのである。

イタリアやフランス、東欧では、話が全く違う。

イタリアやフランスに住んでいる日本人の中には、「ドイツに来るとトイレが清潔なので、ほっとする」と言う人もいる。

ドイツ人は環境保護にとても強い関心を持っている。

これに対し、イタリアやスペインでは、美しい森の中に悪臭を放つゴミや、廃車が山積みにされているのを見ることがある。

ドイツならば、そのような廃棄物が見つかったら、警察が直ちに飛んで来て、犯人探しを始めるだろう。

ナポリで起きたゴミ騒動のような事態は、ドイツでは考えられない。

そのかわりイタリアやフランスは、ドイツよりもはるかに奥深い食文化を持っている。

これは、やはり食通が多い日本人には、大きな魅力である。イタリア人やフランス人のワインへの執着ぶりも、ドイツ人を上回る。

英国人の食事に対する態度は、ドイツ人と似ている。

日本人、フランス人、イタリア人ほど、食事への執着を持っていない人が多い。

ドイツ社会では、何か気に入らないことがあると、すぐに不満を述べたり、批判したりすることが当たり前になっている。

状況を改善するには、建設的な批判を行うことがむしろ奨励されている。

これに対し、ジョン・ブル(英国人)の特性は、「
Stiff upper lip(上の唇を動かさないこと)」。

つまり、自分が気に入らないこと、いやなことがあっても、不平を言わずに耐えることが、英国紳士たるべき態度として、尊敬されるのである。

英国人はそうした不快な状況が生じた時に、ジョークを言って雰囲気を和ませるのが、じょうずだ。

ドイツでは、冗談によって張り詰めた空気を和らげるといった状況を、英国ほど見かけない。

ファッションへの関心がヨーロッパで最も高いのも、イタリアとフランスだ。

大半のドイツ人は、洋服にあまりお金をかけず、ファッションへの関心も低い。

イタリアでは、小さな町に行っても、夕方の買い物時になると、老若男女がおしゃれをして外出してくる。

がいして、南ヨーロッパの人々は、人生を楽しむのが上手であるように思える。

もっとも、長期的に働くには、ドイツは良い国である。

国民が効率を重視するので、市役所、郵便局、公共交通機関など、社会の歯車がきちんと回っている。

ストライキや列車の遅れで、時間をむだにすることが比較的少ないのだ。

ヨーロッパのこうした多様性を発見することは、他の文化圏から来た者にとって、大きな楽しみでもある。

(文と絵・ミュンヘン在住 熊谷 徹)

保険毎日新聞 2008年1月