欧州ひったくり事情

イタリアは、ひったくりが多いことで知られる。

ヴェニス行きの電車の中で、ハンドバックをしっかり胸に抱いて持っていた友人でさえ盗まれた。

寝台車だったのだが、どうやら催眠ガスをまかれたので、気がつかなかったらしい。

ローマでは、スクーターに乗ってやってくるひったくりもいる。

テーブルの上や椅子の横においてあるハンドバックなど、格好の的である。

ベルリンでも繁華街を歩いていた知人が、自転車に乗ったひったくりにあった。

たすきがけにしていたバックをひっぱられて、そのまま数メートルひきずられ、結構、あぶない目にあったそうだ。

 ミュンヘンでも最近は高齢者の女性が相次いでひったくりの被害にあっている。

昨年は162件、今年は最初の半年だけで90件近くの被害が報告されているそうだ。

 犯人は14才ぐらいの若者が多く、ひったくられる被害によくあうのは60才以上の女性たち。

一番危ないのがひとけの少ない墓地だということだ。

ひったくり犯人の三分の一がつかまるそうだが、刑罰は比較的軽く、重い場合でも1年の執行猶予つき。

その一方で、被害にあう女性たちはひったくられる勢いで転倒し、車椅子生活になることも少なくない。

あまり現金を持っていなくても、身分証明書や家の鍵をなくすまいと、ハンドバックにしがみつくためもある。

警察はひったくりにあったら、怪我をしないように、すぐに手放すよう警告しているが、そんなに簡単にあきらめるべきなのだろうか。

しかし、珍しいケースもある。

ミュンヘンの繁華街で、38才の女性が70才の女性にどんと体当たりされ、ハンドバックをひったくられた。

警察は、白髪の女性を追った。

やがて近くの教会にからっぽのハンドバックが落ちているのが見つかり、中にはいっていたお金は全部抜き取られていた。

犯人は若者だけではないのである。

以前、ヨーロッパを久しぶりに旅行する友人に会った時に、口をすっぱくしてひったくりに注意したのだが、数日後、やはりイタリアでひったくりにあって持ち金すべてを失い、日本大使館に駆け込んだ。

道中、おみやげさえ買えずにみじめな思いをしたという。

 海外生活通算で16年の筆者はいまだ一度もひったくりにあっていない。

いかにもお金を持っていなさそうに見えるのだろうか。

しかし、人混みの中にいる時や、急に近づく人がいたら、いつでも警戒するようにしている。油断は禁物である。

(文・福田直子、絵・熊谷 徹)

保険毎日新聞 2004年9月30日