犬の遺伝子と人間の研究
ある取材ではじめてドッグショーに行った。
犬は好きだが、あれだけ多くの犬が集まったところは見たことがなかった。
15センチぐらいの小型のチワワから、体長が80センチもある大型のアイリッシュ・ウルフハウンドなど、千差万別だ。
現在、犬の種類は400種ほどあるらしいが、これほど異なるサイズや毛並みの動物は、哺乳類には他に例がない。
初めて見る種類の犬もあった。
ハンガリーの「コモンドール」は、なかなかの貫禄。かつて「牧羊犬の王さま」と呼ばれた犬は、体重が60キロもある。
まるでモップをかぶったようないでたちだが、とても大人しい。
羊の群れを警備する役目がなくなった今は、家族犬として飼われているらしいが、大きくてとても家の中で飼うような犬ではない。
どの犬にも人間との関わり合いの歴史がある。
犬が家畜化されてから一万年のあいだによくぞこれだけ種類が増えたものだ。
しかし、最近のDNA研究によれば、現在ある種類のほとんどが、せいぜい過去100年間に人間によって、狭い血統の枠内で作られたものであるという。
つまり、偶然か、故意かで新しい種類ができあがった犬の内、気に入った、ものに血統書を与えた。
血統書つきの犬は、短い期間にブリーデイングされるため、近親相姦がおこる。
このため、血が濃くなりすぎて、遺伝性疾患が増えた。特に多く問題がみられるのが、ダックスフンドやシェパード。
ダックスフンドは、ダックス(穴グマ)を追いかけるため、胴が長く、足を短く改良された。
このため、椎間板ヘルニアが増え、車椅子のお世話になる気の毒な犬もいる。
シェパードも背中のラインを重視しすぎたため、背骨が悪い犬が増えてしまった。
血統の重視は、犬には悪い結果をもたらした。
ところが、最近のDNA研究では、犬の血統を探ることが、人間の遺伝性疾患の研究上、てがかりになる可能性を秘めていることがわかった。
人間の遺伝子研究では、アイスランドが注目されている。
アイスランドは長い歴史の中でほとんど外部の血が入っていないことから、遺伝子のサンプリングが比較的簡単にできる。
それと同様に、犬の血統は、狭い範囲内でブリーデイングされてきたことで、研究しやすいということだ。
そして、人間のDNAと犬のDNAは、それほど遠いものではないそうだ。
ちなみに世界で一番古い犬は、秋田犬や柴犬などのアジアの犬であるという。
(文・福田直子 絵・熊谷 徹)
保険毎日新聞 2006年3月