カバ君と海がめの親子愛
メデイアの中の動物ネタは“ひまネタ”か、“うめクサ”(ともに紙面を埋めるための材料という意味)と見られることが多い。しかし、この種のニュースは読者の感性に訴え、おもわず微笑ませる。

2005年は悲惨な津波のニュースで明けた。津波に関する連日のおびただしいニュースの量に、映像に影響されやすい筆者などは津波の夢まで見てしまった。

そのような中、“カバ君、百歳の里親と再び幸せを見つける”という、ほっとさせるような記事があった。ケニアのインド洋沿岸で、別の洪水で両親を失ったカバの赤ちゃんが、自分の体の色に近い海がめを“母親”と思いこみ、いつも一緒に散歩をし、水浴びをして、寝食をともにしているというのだ。

“オーエン”となづけられたカバ君は、海がめのあとについてのそのそ歩き、顔をぺろぺろなめている。一方、海がめの方も、オスであるにもかかわらず、母親であるかのようにふるまうようになったというから、不思議だ。“ムジィー“という名のこの海がめ、スワヒリ語で“年長の男”という意味である。

まだ成長過程にある動物が異種の動物を“親”と思いこむのは、自分の家族を失ったあとにみられる現象。ケニアでは二年前にも、メスのライオンがかもしかの赤ちゃんを育てていて、その姿に、野性公園を訪れる人々はほほえんだ。

狩をしなければならないというライオンとしての野性の本能より、メスとしてカモシカの赤ちゃんを育てなければならないという、母性からくる使命感のほうが強かったのだろうか?

少し戸惑っていたカモシカ君は、しばらくは“産みの親”と“育ての親”のあいだを行き来していたということだが。

しかし、そんなある日、悲劇が襲った。里親であるメスのライオンが昼寝をしているあいだ、オスのライオンがやってきてカモシカを食べてしまった。

はたして、悲劇は繰り返されるのだろうか。カバ君が海がめを襲うことはないとして、両方とも体重は三百キロを越えているとか。近く、オーエン君は子供のいないカバの養子に出される予定だそうだ。

「これだけ悲惨な事件や事故が多い時代に、動物のニュースなんて・・・・」という人もおられるかもしれない。しかし、殺伐とした世の中で、カバと海がめが一緒に写った写真が、人々の気持ちを束の間でも和ませることは事実である。

(文・福田直子 絵・熊谷 徹)

保険毎日新聞2005年2月10日