授業のない学校?

2007年9月、ドイツ北部の町ハンブルクで、風変わりな学校が開かれた。

「ノイエ・シューレ・ハンブルク(新しい学校)」と名づけられたこの私立学校では、生徒たちが望まない限り、授業は行われない。

 85人の生徒たちは、毎週開かれる全校集会で、何をどのように学びたいかを決める。

教師たちは、生徒が決定したカリキュラムの内容を、学習プランとして、文書化する。

このユニークなシステムは、子どもたちが、何を学びたいかを自分で決めるのが、最も効率的な学習方法だという考え方に基づく。

1968年に米国のマサチューセッツ州に開かれた、ある私立学校と同じ方式である。

この学校では、子どもが持つ好奇心を、最も重視する。

「生徒が自分を教育制度に合わせるのではなく、教育制度を生徒に合わせる」ことをモットーとしているのだ。

今日の教育制度学校では、生徒がカリキュラムや規則を押しつけられるのは当たり前になっている。

その意味で「ノイエ・シューレ」はこれまでの常識に真っ向から挑戦するものだ。

 学校の創設者の一人である歌手ネナは、「子どもたちに自由と責任の観念、そして民主主義の精神を学ばせるには、こうしたやり方が一番です」と強調する。

 入学できるのは、6歳から12歳の子どもたちで、生徒は学年別のクラスに分けられず、様々な年齢の子どもが一緒に勉強する。

 またドイツの公立学校では、昼には授業が終わってしまうが、「ノイエ・シューレ・ハンブルク」は全日制。

月謝は150ユーロ(2万4000円・1ユーロ=163円換算)で、ドイツとしては高い方だ。

 しかし学校側が生徒を募集し始めたところ、ドイツ全国から入学希望者が殺到し、2012年まで空きがない状態となっている。

 ドイツには、シュタイナー学校のように、子どもの創造性を育むことを最大の目的とし、従来の学校とは異なる授業方法を取る学校がいくつかあった。

音楽や美術などの情操教育を重点とするシュタイナー学校では、教師が子どもの成績を数値で評価するという習慣が廃止されている。

だが「ノイエ・シューレ」では、子どもが決めたら授業すら廃止されるという点が、ユニークである。

そうした学校に子どもを送る親は社会の少数派だが、個人主義を尊重するドイツ人らしい。

(文と絵・ミュンヘン在住 熊谷 徹)筆者ホームページ http://www.tkumagai.de