イスラエル紀行・5    エルサレムの壁?

テルアビブから死海へ行く途中、エルサレムの東のはずれの地区を通りかかった際に、高さ10メートルのコンクリートの壁が建設されているのを見た。

イスラエル政府が、パレスチナ自治政府の管轄地域との間に作っている分離壁である。

イスラエルは、ヨルダン川西岸地区とガザ地区で起きた暴動「第2インティファーダ」をきっかけに、パレスチナ人と共存する社会の建設は不可能と判断した。

このため2つの民族が住む地域を壁によって分離する計画を実行しつつある。

ちょうどドイツが西と東に分断されていたように。

パレスチナ人の居住地域を取り囲む壁の全長は、730キロメートル。

現在までにおよそ半分が完成している。

シャロン政権にとって特に大事なことは、この壁によって、イスラエルにパレスチナ人の自爆テロリストが侵入するのを、防ぐことである。

コンクリートの壁を作らない箇所にも、高さ3メートルの柵が設置され、監視カメラによってイスラエルに侵入するテロリストを漏れなく逮捕することを狙っている。

実際、2001年の10月からの1年間に、イスラエルでは自爆テロなどによって480人が死亡したが、壁の建設が始まった2002年10月からの1年間には、犠牲者の数が半減した。

2004年8月から2005年9月までは、1度も自爆テロが発生しなかった。

私は2001年から毎年イスラエルに住んでいるが、壁の建設が進むにつれて、警戒感が次第に弱まり、米国やフランスからの観光客が増えていくのに気づいた。

だがパレスチナの一部の市民は、壁建設で生活に重大な支障を受けている。

壁のために農地を耕しに行くことができなくなったり、交通が遮断されたりしているのだ。

このためハーグの国際司法裁判所は、去年7月に「壁の建設は国際法違反であり、直ちに中止されるべきだ。

イスラエル政府は壁建設のために接収した土地を直ちに返還せよ」という決定を下している。

これに対しイスラエル政府は、「ハーグの国際司法裁にはこの問題を審査する権利はない。またイスラエル政府はテロの脅威から国民を守る義務がある」として、建設を続けている。

壁の建設でテロの数が減ったことは、イスラエル人には歓迎するべきことであり、私も毎年数週間この国に滞在するので、その気持ちはわからないではない。

しかしシャロン政権は、将来パレスチナ人が多いエルサレム東部とユダヤ人が多い西部を、壁で分離することを検討していると聞いて、「やりすぎでは」という思いが脳裏をよぎった。

壁で東西に分割されていたベルリンを知っている私には、町を壁で分断する計画は、多文化都市エルサレムの魅力を大幅に減らすような気がしてならない。

(文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)

保険毎日新聞 2005年10月