お金を搾りとられる日本人
ハワイ本島のコナ。「このような美しい場所が世界にはあるものだな」としみじみと感じさせるような見晴らし。知人は、地上の楽園のようなその別荘をついに手放したと聞く。
手放した理由のひとつに、最近、留守中に水漏れがして、下の階に“水損”がもたらされたということがあった。幸い保険をかけておいたので損はしなかったものの、下の階のアメリカ人が理由をつけてはカネをせびろうとするのでので、いやけがさしたという。
私も最近、似た経験をしている。テレビ番組の制作のため日本から制作会社のスタッフ数人と有名キャスターがやって来た。私が撮影コーデイネートの仕事(つまりあらゆる雑用をひきうける請負人)を引き受け、ロンドンに、スタッフとともに一週間ほど滞在したときのこと。人数が多かった上、おりからの円安・ポンド高。日本円での予算の関係もあり、理想とはほど遠いロンドンの民宿のようなホテルには、エレベーターさえなかった。
「○○号室に泊っているのは誰だあ!」
昨日まで満面に笑みを浮かべていたイギリス人のホテルの支配人が、二日目の朝、血相を変えて朝食兼ロビー兼受け付けの部屋へ駈け込んできた。その部屋の浴槽から床に水があふれて、下の階へと被害が広がったらしい。「水を出しっぱなしにしていたのだろう」と断定的な口ぶり。「水が流れないから、風呂にもはいらなかった」と、その部屋に泊っていた人が答える。さあ、大変! この被害を弁償するとなるといくらになることだろうか。その日、ホテルに帰ると手紙が残されていた。
「○○さんの怠慢のために水漏れの被害は甚大です。この弁償は必ずしていただきます (中略)支配人より」
ちょっと待てよ。コンピューターで打ち出された手紙にサインがしてあるばかりで、内容は極めて抽象的。しかも弁償の額も経緯も全く記されていない。ひょっとするとこの手紙は内容が同じで宛名を変えるだけの“フォームレター”ではなかろうか。疑念はむくむくと大きくなっていった。私はムキになって日本人の弁護に廻った。「むしろお宅の排水管に問題があるのではないでしょうか」そう、こんな時にはおじけづいてはいけない。
外国人は日本人について、“オカネを持っている民族”であると思っている。しかし、オカネを持っているのだけであれば他の外国人でもいくらでもいる。日本人が海外で狙われるのは、「これこれしかじかで払ってもらいます」と言われたとき、なぜ?と疑問視することもなく、ほいほいと払ってしまう日本人があまりにも多いのだろう。「払いません」と真正面からノーと言えないためかもしれない。私は状況から、古びたホテルの修復を日本人に払ってもらおうという支配人の意図を感じ、完全無視を決め込んだ。
すると支配人は「この日本人はちょっと難しそうかな」と思ったのか、その後、このことには一言もふれず、我々は無事にチェックアウト。その後、賠償を請求されることもなかった。今から考えてもヘンな事件である。(文・福田直子、絵・熊谷 徹)
保険毎日新聞 2003年12月17日