次の標的はイラン?

 米国でイラク戦争の問題を取材している際に、イラクが核燃料サイクルを完成させようとしていることに、安全保障関係者の間で強い懸念があることに気づいた。

イランはナタンズという場所に大規模なウラン濃縮施設を持っている。イラン政府は、「発電のための施設」と説明しているが、イランは産油国であることから、米国は、この施設が発電所ではなく核兵器の開発施設ではないかという疑いを強めているのだ。
IAEA(国際原子力機関)は、厳しい査察を行うためにイランに追加議定書への調印を求めているが、イランはのらりくらり答弁を続けている。

このため米国では、論客の間で次に米国が「予防的攻撃」を行うとしたら、標的はイランだという見方が強まっている。イランはブッシュ大統領が「悪の枢軸」と名指しした一国であり、反イスラエルの姿勢が強い。このため、米国の安全保障への直接の脅威とは言えないものの、イスラエルという中東での米国の最大の友好国にとっては、危険な存在である。イランが核兵器の開発を行っているとしたら、イスラエルがかつてイラクの原子炉を戦闘機による爆撃で破壊したように、「予防的攻撃」に出る危険がある。

このようにイスラエルとイランの間で戦端が開かれるのを防ぐ意味でも、イランに対して査察を実施することは重要である。だがイラク戦争の大義名分となった大量破壊兵器がイラクで発見されず、大統領の演説に使われた諜報機関の情報まで、嘘を含んでいたことがわかっている今、米国がイランの核疑惑について発表する情報は、簡単には国際社会によって信用されないだろう。

イランとドイツの経済関係はきわめて深い。もしも米国がイランに対して軍事攻撃を行うとしたら、ドイツやフランスと、米国との対立関係はより深刻なものになり、米国の単独行動主義に対する批判はますます高まるだろう。もう一つ米国や国連の態度で矛盾していると思うのは、軍事専門家の間ではイスラエルが核兵器を保有していることは、ほぼ確実とされている。(イスラエルは抑止力を維持するために、この事実を絶対に公式には認めない)それなのに、同国の核疑惑については誰も検証や査察を求めないことである。アラブ諸国は不公平と感じるだろう。

イランに厳しい査察を求めるならば、イスラエルを含めた中東全域を非核地帯にするべきではないだろうか。

週刊 ドイツニュースダイジェスト 2003年8月9日号掲載