自衛隊イラク到着に想う
90年代にソマリアに軍事介入した米軍が、多数の死者を出して撤退した事件を描いた映画「ブラックホーク・ダウン」の中で、ソマリア人が米軍将校に対して「This is not your war(これはあなたたちの戦争ではない)」と言う場面がある。1月16日にイラクの土を踏んだ自衛隊員たちは、今後この問いを常に自分たちに突きつけることになるだろう。イラク戦争は、ほんとうに我々の戦争なのだろうか。
日本が紛争地域に自衛隊を派遣するのは、戦後初めてのことである。しかも米国は国連安保理の承認なしで、イラクに侵攻した。開戦から1年近く経っているにもかかわらず、戦争の最大の理由だった大量破壊兵器は発見されておらず、サダムフセインとアル・カイダが協力していた証拠も見つかっていない。開戦前のブッシュ大統領の演説を読むと、イラクが大量破壊兵器をテロリストに渡し、それが米国に対して使われる危険が目前に迫っているという印象を受けるが、現在では、緊急の危険はなかったことがわかっている。
つまり、米国政府は確たる証拠もなく、憶測に基づいて「やられる前に相手を叩いておく」という予防戦争を実施したのである。これは、国連憲章に違反する行為である。独仏が今も米国に対する本格的な協力を拒否している理由は、そこにある。
日本政府にとって、米国は朝鮮半島有事で頼ることができる唯一の同盟国である。小泉政権が、イラク戦争の違法性には目をつぶり、部隊派遣と資金供与によって米国を支持することが国益にかなうと考えているのは、有事の際に米国に守ってもらうためである。だが米国も義理人情ではなく国益で行動する。コロンビア大学のR・ジャービス教授は、こう言う。「国際政治の世界では、感謝の気持ちは5分間しか続かない」
米国は、ベルリンの壁が築かれた時に、ソ連と軍事衝突するのは犠牲が多すぎると考え、ベルリン市民を見捨てた。韓国の38度線付近に多数の米軍将兵が駐屯している時に、北朝鮮が日本を攻撃した場合、米軍が自国民に犠牲が出ることを恐れて、反撃しないことはあり得る。小泉首相は、第二次世界大戦以降、米国が同盟国にどう対応してきたかの歴史をひもとくべきではないだろうか。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2004年1月24日