「頭を覆う布」訴訟の波紋

 敬虔なイスラム教徒の女性にとっては、頭に布をかぶらないで人前に出ることは、「裸で町を歩くのと同じくらい」抵抗感があることだという。

アフガニスタン出身で、ドイツの国籍を持つイスラム教徒の女性が、学校で頭に布をかぶって教壇に立つことを禁止されたことについて、「憲法違反だ」と主張して連邦憲法裁判所に提起していた訴訟は、多民族国家になりつつあるドイツが抱える問題を浮き彫りにするもので、実に興味深い。

裁判官たちは、9月末に下した判決の中で直接の憲法判断は避け、「教師が頭に布をかぶって、授業を行うことを禁止するかどうかは、各州の政府が政令や規則を作って、決めなくてはならない」として、各州の文部当局にげたを預けた形となった。バイエルンとザールラントの州政府は、学校で教師が頭を布で隠すのを禁止する方針を発表している。これに対し、ハンブルグやノルトライン・ヴェストファーレン州では、イスラム教徒の女性教師は、布をかぶったまま授業を行うことを許されている。

様々な家庭環境を持った子どもが集まる場所である学校では、中立性が求められるため、教師が特定の宗教を生徒に押し付けることは、好ましくない。女性が頭髪を隠すためにかぶる布はイスラム教の象徴である上、欧米にはこの布を「女性の自由を抑圧する悪習だ」として批判する人もいる。その意味では先生が布をかぶって授業をすることは、教育機関の中立性を脅かす可能性はある。

教師がキリスト教の司祭のような格好で授業を行おうとしても、まったがかかるだろう。実際、憲法裁判所は、バイエルン州の学校に対し、教室に十字架に磔になっているキリストの像を掲げるよう指示する規則は、憲法違反だという判決を出したことがある。だが、イスラム教徒の女性に布をかぶるなと命令したり、布をかぶる女性に特定の職業につくことを禁じたりすることは、キリストの磔刑像とは違って、個人の自由を制限することにつながり、微妙な問題である。その意味で、憲法裁判所は州政府に決定させることによって、学校の中立性対個人の自由という難解な問題に、明快な答えを出すことを避けたと言えなくもない。

将来ドイツで外国人が人口に占める比率が増えるにつれて、外国の習慣と公務員の中立性をめぐり、同じような問題が次々に生じるに違いない。

週刊 ドイツニュースダイジェスト 2003年10月24日号掲載