急増するドイツの社会保障支出

 ドイツは、日本と並んで世界で最も急速に高齢化と少子化が進んでいる国の一つである。同時に統一という歴史的な変化や、経済のグローバル化に伴って、労働市場が大きな変化にさらされ、失業者の数も大幅に増えている。今年一月の完全失業者の数は460万人に達している。

同時に、年金・失業手当・生活保護の給付金など、社会保障に関する支出も、ここ数年大幅に増加している。去年ドイツ政府が発表した「社会保障報告書」によると、1991年から1995年にかけて、社会保障に関連する支出は、毎年平均7・1%という高い上昇率を示した。その最大の原因は、ドイツ統一によって旧東ドイツで多くの国営企業が民営化されたり、閉鎖されたりしたために、失業者の数が急激に増えたことや、肩たたきによって、予定を繰り上げて年金生活に入る人が増えたことである。これに対し、国内総生産つまり国民が創造した価値は、同じ時期に5%しか伸びていない。生み出される価値を上回るテンポで、社会保障支出が増加する傾向は、1998年にシュレーダー政権が誕生してからも、続いている。

たとえば1998年と1999年には、社会保障支出が毎年平均3・7%ずつ伸びたが、経済成長率は2・4%にとどまっている。この結果、ドイツでは国内総生産の約3分の1が、社会福祉のために使われている。2001年の支出額は、約6490億ユーロ(約84兆3700億円)に達している。これに対し、日本の社会保障関連支出は、厚生労働省の統計によると、1999年の時点で約16兆円。名目
GDPの内、社会福祉に回されているのは、約16%にすぎない。ドイツの約30%に比べると、はるかに低い。

日本では、生活に困窮している人は、国家に頼らずに、自助努力で暮らしを維持するよう求められていることになる。一見厳しいようだが、政府への依存心を起こさせず、自力更生を促進するという意味では、良いことかも知れない。しかし、今後社会の高齢化と、グローバル化に伴う経済構造の変化に拍車がかかった場合、日本でも社会保障のための支出を増やして、安全ネットを構築することが、社会の摩擦を防ぐためには、必要になっていくかもしれない。

一方、ドイツにとっては
GDPの約3分の1を社会保障に回すという、高福祉環境をいつまでも続けることは、経済の国際競争力を高めるという観点から見れば、きわめて難しくなると思われる。企業の投資や雇用を促進して、失業者数を減らすには、社会保障支出を減らしていくことが、不可欠であろう。

(ミュンヘン在住 熊谷 徹) 


保険毎日新聞 2003年4月24日号掲載