対立から協調への道を歩む米独関係

Auszug von der Rede von Aussenminister Frank-Walter Steinmeier bei der 45. Muenchener Sicherheitskonferenz 06.02.2009

2009年2月6日にミュンヘンで開かれた第45回安全保障会議で、フランク・ヴァルター・シュタインマイヤー外務大臣が行った演説からの抜粋

2009 muss aber auch ein Jahr des Aufbruchs sein fur die internationale Sicherheits- und Abruestungspolitik. Der Kalte Krieg ist schon zwanzig Jahre vorbei. hoechste Zeit, dass wir jetzt endlich auch seine Denkmuster ueberwinden. Denkmuster, die uns manchmal immer noch wie lange Schatten aus der Vergangenheit begleiten.

(中略)

Falsche Antworten in der Krise, Isolation, Protektionismus, rein nationales Denken koennen diese Krise verschaerfen. Die richtige Antwort im 21. Jahrhundert kann nur Transparenz und Zusammenarbeit sein! In Washington hat eine neue Administration die Arbeit aufgenommen, die ganz explizit auf diese Zusammenarbeit setzt.

「2009年を国際的な安全保障政策、そして軍縮政策に変化をもたらす年にしなくてはなりません。冷戦はすでに20年前に終わっているのですから、冷戦時代の思考パターンから抜け出すべき時です。冷戦時代の考え方は、過去からの影のように今でも我々につきまとうことがあります。(中略)危機の時代に、孤立、保護主義、自国のことだけを考える発想で対応しようとすると、危機を悪化させるかもしれません。21世紀の正しい答えは、透明性と協調以外にありません。ワシントンでは、協調を重視する新しい政権が始動しました」。

出典・Auswaertiges Amt(連邦外務省のホームページから)

シュタインマイヤー外相のこの言葉には、ドイツ政府が米国のオバマ政権にかけている大きな期待がはっきりと表われています。オバマ大統領は4月初めに、金融危機に関するロンドンでのG20サミット、フランス・ドイツでのNATO(北大西洋条約機構)創立60周年記念式典などに出席するために、就任後初めてヨーロッパ諸国を歴訪しました。この歴訪でオバマ氏は、世界のリーダーとして考えを他国に押し付けるのではなく、ヨーロッパの国々の主張に「耳を傾ける」という謙虚な姿勢を見せました。

さらにオバマ大統領はプラハで行った演説の中で、核兵器の全廃へ向けてロシアと戦略核の削減交渉を再開するとともに、イランなどへの核拡散を防ぐために努力するという方針を明らかにしました。彼は「自分が生きている間に実現しなくても、核兵器が全くない世界を目指す」という長期的なビジョンを打ち出したのです。

シュタインマイヤー外相は、このオバマ氏の演説についてbeeindruckende Rede, die einen klaren Kurs bei der atomaren Abruestung vorgibt“核軍縮の道筋を明確に示す、すばらしい演説だ)と述べて高く評価しています。さらにオバマ氏は「温暖化防止に対する米国の態度は、これまで十分ではなかった」と述べ、今後は環境保護に力を入れると明言したことも、ドイツ人に感銘を与えました。多くのドイツ人はオバマ大統領に対して好感を抱いています。バーデン・バーデンでオバマ氏を暖かく歓迎した市民の態度にも、そうした姿勢が表われています。この背景には、前任者のブッシュ政権の8年間に米独関係が極めて悪化したという事実があります。

米国は2001年9月11日にイスラム過激派による同時多発テロを経験し、威信を深く傷つけられました。ブッシュ政権はアフガニスタンやパキスタンなどでイスラム系テロ組織に対する戦いを始めましたが、その過程でイラクのサダム・フセインが核兵器や化学兵器を保有していると思い込み、国連の決議もなしに同国に侵攻し、政権を転覆させました。

当時ドイツの首相だったシュレーダー氏は、「イラクが大量破壊兵器(Massenvernichtungswaffen)を持っているという証拠は薄弱だ。侵攻作戦は国際法に違反する」として、この戦争に反対し、協力を拒みました。さらにブッシュ政権がテロリストの容疑者を裁判にもかけずに、グアンタナモ収容所やCIAの秘密収容所に無期限に拘束したり、容疑者に対する拷問を許可したりしたことも、ドイツの米国に対する不信感を強めました。この戦争でイラクの民間人に多数の犠牲者が出ましたが、大量破壊兵器は結局見つかりませんでした。

今日のドイツでは、多くの人がナチス時代のユダヤ人虐殺や人権侵害に対して今なお深い反省の念を抱いており、「過去との対決」や人権の尊重、弱者の保護が国の方針になっています。平和を愛し戦争を憎む心が社会に深く浸透しています。このため、他国による人権侵害についても、批判するのです。私の知っているドイツ政府のある高官は、イラクのアルグレイブ刑務所で兵士たちがイラク人を拷問している模様を写真に撮っていた事件が明るみに出た時、「国防長官が直ちに辞任しないとは信じられない」と語りました。

一方米国もドイツの態度に強い不信感を抱きました。私が2003年にワシントンの国務省でインタビューした高官は「ドイツ人がイラク戦争に真っ向から反対したことには驚いた。連邦議会議事堂にテロリストが旅客機で突っ込まない限り、ドイツ人には我々の気持ちはわからないのではないか」と語っていました。

西ドイツは米ソ冷戦の時代には、鉄のカーテンの最前線に位置する国でした。ドイツは同盟国の中でも、米国に最も忠実な優等生の一人だったのです。しかしイラク戦争でドイツは初めて米国に反旗をひるがえしました。このためブッシュ政権の8年間に、両国の関係は第二次世界大戦以来、最も険悪な状態におちいったのです。

オバマ大統領は、グアンタナモ収容所やCIAの秘密収容所の閉鎖、拷問の禁止などの措置によってブッシュ政権の行き過ぎを次々に正しています。これはドイツ人だけでなく西欧諸国の信頼感を回復する上で重要な一歩です。

オバマ氏は国際金融危機、イランの核開発、アフガニスタンでの対テロ戦争などの難題を、ドイツなどEU諸国の支援なしには解決できないことを知っているのです。その意味で大西洋をはさんだ米国と欧州が、「協調と対話」へ向けて一歩を踏み出したことは、全世界にとってプラスになるのではないでしょうか。 

NHKテレビドイツ語会話 2009年7月号