ノーと言える日本人 

花の都、パリ。空港についた時からなんだかうきうき。ドイツと違って空港の表示がわかりにくくて、犬の落し物で道がよごれていても、買い物をしたあとで“おつりが足りなかった”と気づいて悔しい思いをしても……うーん、パリだから我慢。

パリ滞在は常に異なる地区に泊ることにしている。この日はシャンゼリゼ通り近くのジョルジュ・サンクのプチホテルに予約を入れてあった。さあ、どんな部屋だろう。

いままでに一番小さな部屋はクロアチアのザグレブで経験ずみ。ベッドよりちょっとだけ広い部屋で、ベッドと壁の隙間をカニのように横歩き。戸棚はほとんどまくら元の上の壁に備えつけられていた。朝食は三つぐらいしかテーブルがないため泊り客が外に並んで入れ替わる。こう書くと“そんな安宿”と思われる方もいるだろう。しかし、値段的にも決して安くない4つ星だった。旧共産圏が資本主義となったいま、西側以上に高くてもみんな必要に迫られれば払うもの、と信じこんでいるにちがいない。

さて、ジョルジュ・サンクのプチホテルは3つ星なれど、屋根裏部屋の天井は斜め。床も斜めで、ザグレブのホテルに負けないほど恐ろしく狭い部屋。バスルームに入るにも横に歩かないと入れない。まあ、寝るだけなのだからいいか。

……と思っていたのは床についた時まで。屋根に水タンクがあって水を汲み上げるのか、一晩中、15分おきごとに「ガッターン、ザバーン! ガッターン、ザバーン!」おかげで睡眠時間、この日は1時間であっただろうか。

いくらなんでも出張なのに! これが十年前であれば、黙っていたかもしれない。しかし、寝不足で頭がボーっとするので、次の日は是非とも部屋を替えていただこう。勇んで受付にいけば、すぐにましな部屋を替えてくれるという。それも同じ値段で!

即刻、荷物をまとめて次の部屋に行けばあけてびっくり。“あれ、ベッドがない”と思ったのはそこが応接室だったから。奥の部屋には巨大なキングサイズのベッドがあった。少なくとも前の部屋の三倍はあるだろう。なんと、3人ぐらいが悠々と泊れる極上スイートにしてくれたのだった。荷物を広げると二部屋にまたがって椅子やソファが遠くにあるため、なにをどこに置いたか戸惑う始末。それにしても同じ値段でなんで、これだけ違うのでしょう?

フランス人は黙っている日本人はぞんざいに扱っても大丈夫、しかし、文句を言えば「よく言ってくれました 」とばかりに気前がよくなるのだろうか。

ちなみにパリで泊った次のホテルでも最初は道路沿いで朝はゴミ収集トラックの音で目が覚めた始末。前の回で味をしめたこともあって“中庭向きの部屋をお願いしますと頼んでおいたじゃないですか”と文句を言ったら、またすばらしい部屋に替えてくれた。読者のみなさん、日本人も時には“ノー”と言わなければなりません。やはり西洋では“文句を言うが勝ち”なのです。

(文・福田直子、絵・熊谷徹)保険毎日新聞 2004年3月18日