ペーパーレス・オフィスの幻想

「‘ワード’でおくりましょうか、それとも‘PDF’がよろしいでしょうか」
また広報の担当者に聞かれる。PDFはダウンロードに時間を要するし、印刷が面倒だ。「ではワードでお願いします」と答えつつ、印刷の面倒さと経費を思いめぐらしていた。

一昔前であれば、広報資料は郵送で送られてきたから郵便代も印刷代もあちら持ちであった。それが今はインターネットに接続、検索したネット上の資料に一応、目を通してから資料請求、質問状を送らないかぎり、「ネット上の資料に目を通されましたか」あるいは、「ネット上に全て載っています」と言われるのがおちだ。つまりあちらとしてはネットの登場で印刷代が節約できるし、無駄な質問には答えたくてもよくなった。しかし、こちらとしては思わぬ発見につながるかもしれない、質問がしにくくなったばかりか、従来、向こう持ちであったインク代も支払わなくてはならない。では印刷せずにネット上で一読してすましてしまうか。答えはノーである。

“インターネットでペーパーレス時代が到来!“となんだか未来型オフィスが前面に押し出されて、新しい時代がやってきたかのようだった。実態はどうか。

とんでもない! ペーパーレスどころか、多くの調査結果が示しているように、紙の需要は高まっている。スイスの保守系新聞ノイエ・チューリッヒャー紙によると、オフィスの一人当たりの紙消費量は毎年4%増えているということである。あるコンサルテイング会社は1996年から2003年までに企業の紙の消費量は倍増すると予言していた。

ケルンの専門大学の研究によると、“ペーパーレス”化されているのは、文書の20%にすぎない。電子メールでも大事なものは印刷しておかなければ不安というもの。インターネットや社内イントラネットを毎日活用していても、保存の仕方を工夫しなければ文書はみつかりにくい。自分だけのシステムではなく、他人が見ても見つかるようにしなければならないし、そのPCが機能しない場合のことも考慮しておかなければならない。

同時多発テロで二つの高層ビルから大量の紙が降ってきたことは記憶に新しい。“あれ?アメリカのトップ企業は電子化していなかったのだろうか”と思った人も多いことでしょう。それでも“紙にしておかなければ気がすまない”と思っている人がまだまだ多数なのである。(文・福田直子 ミュンヘン在住)