新社長を迎えたRWEの新戦略

 「2003年の目的は、買収した企業を統合し、グループを強固にすることだ」今年2月にドイツ最大のエネルギー企業RWEの社長に就任したハリー・レルス氏(54才)は、エッセンにある本社で株主や記者団に対して、強調した。

*拡張から統合へ

レルス社長は、前任者クーント氏の急激な買収・拡張戦略に一区切りをつけ、今後3年間は大規模な買収を行わない方針を明らかにした。同社は、過去3年間に英国のイノジー社、テームズ・ウォーター社、米国のアメリカン・ウォーター社、チェコのトランスガス社などの外国企業に、300億ユーロ(約4兆2000億円)の巨費を投じ、買収や資本参加を続けてきた。

 レルス新社長は、「電力、水道、ガス、環境サービスを一手に提供する戦略は、ドイツ、英国、米国、中欧の四つの中核マーケットで最も効率的に展開できる」と述べ、これらの市場に力を集中し、買収企業のグループへの融合と、収益性の向上、債務負担の削減を優先するという姿勢を明らかにした。

* 債務増で純益減少

 同社が発表した2002年度の業績報告によると、イノジー社とトランスガス社への資本参加などによって、本業の利益は前年比で15%増えて45億ユーロ(約6300億円)に達したものの、当期利益(純利益)は、22%も減少した。当期利益が大幅に減った理由は、企業買収のための資金借り入れに伴う、利子負担と、保有株式の評価損などである。

RWEが今年1月にアメリカン・ウォーター社の買収を完了した後、債務額は約250億ユーロ(約3兆5000億円)にのぼっており、同社は2005年の末までに債務額を220億ユーロ以下に減らす方針を発表している。さらにRWEは、機械製造会社ハイデルベルガー・ドルック社、ホーホティーフ社など、不採算企業をグループから排除する方針も明らかにしている。これに対し電力部門からの利益は、イノジー社の統合効果を除いても、コスト削減努力によって、前年比で32%も増えている。レルス氏が、今後エネルギー事業とは関連のない部門から撤退し、リソースを中核事業に集中して増益傾向に拍車をかけようとすることは、ほぼ間違いない。

* 革命的な社長人事の背景

オランダ人のレルス氏は、元々化学系のエンジニアで、ロイヤル・ダッチ・シェル社の取締役会から、RWE社長に抜擢された。100年以上の歴史を持つこの伝統企業で、他企業の外国人がトップの座を占めたのは、初めてのことである。ドイツの経済界では、この革命的な人事の背景に、RWEの収益性の改善を狙う大株主、ミュンヘンのアリアンツ保険会社の意向があるという見方が強い。RWEが巨額の借金を重ねながら、繰り返してきた国際買収については、投資アナリストらの間から、「シナジー効果に比べて費用が高すぎる」という批判も出ていた。保有株式の評価損に苦しむアリアンツは、RWEの業績悪化によって、同社の格付けが下げられ、株価が下落することを恐れたに違いない。

その意味で、レルス新社長が前任者の戦略を覆すような大胆な手段によって、業績の改善をめざすことは想像に難くない。RWEという社名はライン・ヴェストファーレン電力会社の頭文字を取ったものだが、ドイツでは「Ruhig(静か), Warm(暖かい), Erholsam(のんびりできる)」の三語の頭文字をとったもの、つまり波乱が少なく、社員にとって居心地の良い会社という冗談があった。しかしレルス氏の登板で、そうした時代は完全に過去の物になったようだ。

電気新聞 2003年8月6日号掲載