2001年2月26日   保険毎日新聞掲載

劣化ウラン弾とと環境破壊

 

アメリカ軍とNATO(北大西洋条約機構)は、湾岸戦争ではイラクに対し、またコソボ戦争ではセルビアに対し形式的には勝利を収めた。

ところが、実際に戦場に投入され、汚れ仕事をさせられた兵士たちの間に、思わぬ問題が発生している。最近ヨ−ロッパで大きな問題となっているのが、コソボやボスニア・ヘルツェゴビナに平和維持部隊として派遣された兵士たちの健康障害である。これまで旧ユ−ゴでの任務から帰還した兵士の内、イタリアなど7か国の兵士たち20人が白血病などガンで死亡していることがわかったのだ。

一部の科学者たちは、アメリカ軍の地上攻撃機A10が、コソボなどで発射した大量の劣化ウラン弾とガンの発生の間に、因果関係があるのではないかと推測している。劣化ウランは質量が重いため、弾丸として使用すると、戦車の装甲板などを貫通する能力を高めることができる。これに対しNATOでは、劣化ウラン弾から出る放射能は極めて弱いため、兵士たちの健康に悪影響を与えたとは考えにくいと、否定的な態度を示している。

しかしながら、コソボで現地調査を行った国連環境プログラムの科学者たちは、「現場に残された劣化ウラン弾の下の土壌には弱い毒性が認められた」と発表している。放射能そのものが弱くても、劣化ウランは重金属であるため、何万発も使用されて破片や粉末が空気中に飛び散った場合、それを吸い込むと人体に有害である可能性は否定できない。

ドイツ政府のシュレ−ダ−首相は、NATOに対し劣化ウラン弾の安全性について徹底的に調査し、有害とわかった場合には使用を禁止するよう求めている。これは、湾岸戦争から帰還した兵士たちの間で健康障害が発生した「湾岸症候群」と似ている。一説によると、3万9000人にのぼるアメリカ兵が健康を害して除隊し、湾岸戦争に参戦したアメリカ・イギリス兵の内2000人以上がガンなどで死亡したと言われている。湾岸症候群の原因については、化学兵器の貯蔵庫を爆破した際に拡散した毒物や、油田の火災による有害物質など諸説紛々だが、原因は特定されていない。

劣化ウラン弾をめぐる議論は、新しい軍事技術が、敵にダメ−ジを与えるだけでなく、環境や自国の兵士たちにまで思わぬ悪影響を及ぼす恐れがあることを、我々に教えている。(熊谷 徹・ミュンヘン在住)