2003年1月11日    週刊 ドイツニュースダイジェスト掲載

戦争の暗雲           熊谷 徹


街にあふれるクリスマスの飾り付けや、ラジオから流れる陽気な音楽にもかかわらず、2002年の年の瀬は、重苦しい雰囲気に包まれていた。

その理由は、日一日とイラクに対する戦争の可能性が高まっているためだろう。米国政府は、イラクが提出した1万ページを超える、大量破壊兵器に関する報告書の内容は不完全であり、「核・生物・化学兵器を持っていない」とするサダム・フセインの主張を信じることはできないという見方を強めている。

現地で査察を行っている国連調査団は、1月27日に査察の結果を報告しなくてはならない。その翌日にはブッシュ大統領が、恒例の「国家情勢報告」に関するテレビ演説を全米向けに行う。一方、米軍はイラクに接するクェートに続々と兵力を集結させつつあり、国境付近で繰り返し演習を行っている。

英国政府も、戦車部隊を含む2万人の兵士や、空母「アーク・ロイヤル」を含む機動部隊を、湾岸地域に派遣する準備を整えている。こう考えてくると、フセインが米国と国連の前に頭を垂れて「実はここに化学兵器と生物兵器を隠しておりました」と告白し、大統領の座を退くことを明らかにでもしない限りは、1月末から2月始めにかけて、米英軍がイラク攻撃に踏み切る可能性が強い。国際市場で金の価格が上昇しているのも、有事が近づきつつあることの予兆である。

イラク軍の兵力は前回の湾岸戦争の時に比べて、減っているため、今回の戦争は比較的短期間で終わるという見方が強い。

しかし、米英軍にとって悩みの種は、前回とは異なり、バグダッドに侵攻して、サダム・フセインの身柄を確保しなくてはならないことである。最新の装備を誇る米軍も、市街戦を大の苦手とすることは、ソマリアで失敗した作戦によって立証されている。このため、米軍は前回の湾岸戦争を上回る出血を強いられるだろう。もしもサダム・フセインが化学兵器や生物兵器を使った場合、米軍は戦術核兵器で報復する方針を明らかにしており、イラク市民にも多数の犠牲者が出る恐れがある。

開戦後、アル・カイダなどの過激組織が、欧米の大都市でテロ攻撃に踏み切る可能性も捨て切れない。9・11に回り始めた暴力の歯車は、あと何人の血を吸えば、満足するというのだろうか。出口はまだ当分見えそうにない。