大量失業をどう解決するのか?

副題:欧州の慢性病の克服には、経済改革が不可欠

 

今年のドイツの冬は、一段と厳しい。私が住んでいるアパートの裏の建設現場でも、一月以降雪がたくさん降り積もって、作業が全くできなくなっている。このように冬季には悪天候によって、屋外での労働が一時的にできなくなるため、毎年一月・二月の失業統計は、数字が大幅に悪化する。

* 悪化する失業禍

それにしても、今年一月の記録はショッキングだった。連邦労働庁が発表した統計によると、ドイツの失業者数は、前の月に比べて39万8000人も増えて、462万人に達したのである。昨年の同じ時期に比べても、33万人の増加だ。冬の悪天候という季節要因を除いても、6万人失業者数が増えている。

失業率も11・1%に達したほか、統一の影響が今も残る旧東ドイツでは、19・5%という高い失業率を記録している。特にザクセン・アンハルト州とメクレンブルグ・フォアポンメルン州では、働くことができる人の5人に1人が路頭に迷っている。

さらに失業統計をじっくり見つめると、職を失ったものの、労働局の斡旋で職業訓練を受けている人や、国の補助金で運営されている雇用創出措置(ABM)で、仮に雇用されている人は、失業者の項目には入っていないことがわかる。こうした人々も含めると、仕事を探している人の数は、あわせて549万人という高い水準に達する。しかもクレメント労働経済大臣は、厳しい寒さと景気の悪化によって、二月の失業者数がさらに著しく増える可能性を示唆している。

* EUで1330万人が失業

シュレーダー政権にとって、失業問題は最も重要な政策課題である。このため政府は「ハルツ委員会」の提案に基づき、失業者をパートタイマーとして企業に派遣する「PSA」制度を導入したり、PSAによる斡旋を拒否した場合には、失業手当の給付額を削減し、失業者が就業するための圧力を高めたりすることによって、2005年までに失業者の数を半分に減らすことを目指している。しかしこれらの対策が、10年前から続いてきた恒常的な失業禍の、抜本的な解決策になるかどうかは、全くの未知数である。

失業はドイツだけでなく、ヨーロッパ全体の問題でもある。欧州統計局の調べによると、欧州連合の15ヶ国が抱える失業者数は、1330万人にのぼる。季節要因を除いた失業率は7・7%だが、25歳以下の若年者の失業率は、EU全体で15・7%と高い水準に達している。特にスペインでは25%という高率である。EUの失業率は、米国の5・8%、日本は5・4%を大きく上回っている。

* 経済改革が不可欠

こうした失業問題を抜本的に解決するには、小手先の対症療法では不十分であり、企業が雇用を増やすことができる環境を作るための、経済改革が不可欠である。企業が雇用を増やすことができない理由の一つは、税金と社会保障費用によって、人件費が高くなっていることである。ドイツ財務省によると、国民が労働によって生み出す価値のうち、国が税金と社会保障コストとして持っていく比率は、米国が29・5%、日本が38・4%であるのに対し、ドイツは47・2%、フランスは51・1%とはるかに高くなっている。

特に失業手当、年金、健康保険など社会保障に関する支出がGDP(国内総生産)に占める割合が高いのがヨーロッパ経済の特徴であり、ドイツではGDPの29・5%、フランスでは29・7%が社会保障のために支出されている。

対テロ戦争などによって、企業の業績が悪化するにつれて、人件費が高いままでは、経営者は雇用を拡大するどころか、利益を確保し投資家のご機嫌を損ねないために、さらに雇用を減らす恐れがある。

 このため、EU諸国は減税と社会保障コストの削減を実施しなくては、1000万人を超える失業者の数を減らすことはできない。特にドイツでは社会保障コストの伸び率が、経済成長率を上回っており、このような不健全な状態を長く維持することは、とうてい無理だ。

* ユーロ基準がネックに

 ところがユーロを使っている国々には大きな足かせがある。それは欧州通貨同盟に参加するための基準によって、財政赤字や公的債務がGDPの一定の割合を上回ってはならないと定められていることだ。つまり、各国政府は不況によって税収が減っている時に、減税を行うと、ユーロを持つための基準に違反してしまう恐れがあるのだ。日本政府のように、GDPの140%に達する借金を重ねることは、到底できないのである。現在のドイツは正にユーロを維持するための基準と景気悪化の悪循環に落ち込んでおり、一期目に減税をめざしたシュレーダー政権は、逆に増税せざるを得なくなっている。クレメント大臣は、米国がイラクに対して戦端を開いて、世界的にさらに景気が悪化した場合には、ドイツの財政赤字や公共債務がさらに増えて、ユーロ圏参加基準に違反する可能性を早くも示唆している。

* 有権者の抵抗も

 また、長年にわたり社会保障の安全ネットに慣れてきたヨーロッパの国民に、十分に説明をせずに、社会保障の削減を決定したり実行したりすると、各国政府の首脳は、シュレーダーが今年二月のヘッセン州とニーダーザクセン州で味わったような、強烈なパンチを有権者から浴びる恐れもある。1000万人を超える失業者がいても、社会不安が発生しない理由の一つが、手厚い社会保障システムにあることも事実だからである。

 ヨーロッパの政治家たちは、ユーロ参加基準に違反することなく、高い税金と社会保障費用を減らし、雇用を拡大するという、きわめて難しい公式を解くことができるだろうか。

週刊 ドイツニュースダイジェスト 2003年3月8日掲載