2002年11月30日 週刊 ドイツニュースダイジェスト掲載

生まれ変わったNATO                      熊谷 徹

 冷戦に勝って敵を失ったNATO(北大西洋条約機構)は、11月末にプラハで開いた首脳会議で、テロリズムと大量破壊兵器の拡散を、21世紀の新しい敵として位置付けた。ワルシャワ条約機構の侵攻に対抗するために創設されたNATOは、アル・カイダのような国際テロ組織に対応するには向いていない。

実際、去年
9月11日に世界貿易センターとペンタゴンが攻撃された直後、NATOは史上初めて条約の規定に基づき「同盟国が攻撃された事態」を宣言したが、これは米国に対する連帯感を示すジェスチャー以上の物ではなかった。実際、その後のアフガニスタン作戦では、英国やドイツなどは各個に戦闘部隊を送っており、NATOの枠組みの中で行動しているわけではない。世界最強の軍事同盟は、対テロ戦争にはほとんど役立っていないのである。

NATO加盟国がプラハで採択した宣言の中で、米国の提案に基づき、対テロ戦争などに敏速に対応するためのNRF(NATO緊急対応部隊)を創設する方針を打ち出したのは、この同盟を新たな脅威に対応できるように改革することを狙ったものだ。さらにNATOは、東欧の7か国を2004年にNATOに加盟させることを決定した。特に、かつてソ連の一部だったエストニア、リトアニア、ラトビアがNATOに加わることは、ロシアと欧米諸国の関係がこの十年間で飛躍的に改善されたことをも示す、歴史的な出来事である。多くの国内問題を抱えるプーチン大統領は、対テロ戦争を進めるという大義名分の下に、NATOと協力することが得策と判断しているのだ。

プラハでのもう一つの焦点は、対イラク戦争だった。NATO加盟国の大半が、イラクが国連決議に従わない場合に、武力行使を行うという米国の方針に基本的に同意したことは、ブッシュ大統領の立場を一段と強化し、対イラク戦争への参加を拒否しているドイツを、一層窮地に追い込んだ。国連がイラクの決議違反を認定し、米国が武力行使に踏み切った場合、欧州諸国や国連加盟国の間で、ドイツはますます孤立するだろう。

シュレーダー首相は、対米政策と国民の反米感情を選挙戦に利用し、ドイツが過去半世紀に渡って築き上げてきた米国との友好関係を傷つけたつけを、今払わされようとしているのだ。11年前の湾岸戦争で味わった屈辱が、再び繰り返されようとしている。