ドイツ市場で第三位の電力会社誕生へ

 

米国のエネルギー商社エンロン破綻の衝撃が、ここドイツの電力市場を駆け巡った十二月初旬、もう一つのビッグ・ニュースが市場関係者の注目を集めた。スウエーデンの国営電力会社ヴァッテンファル社が、二年以上にわたる複雑な交渉の結果、ベルリンの電力会社・BEWAGをほぼ完全に手中に収めることを発表したのだ。これによって、ドイツにはRWEEONに次いで第三位の規模を持つ電力会社が、誕生することになった。

‐「新しい力」の誕生

ヴァッテンファル社は、すでにBEWAGの株式の四四・八%を保有していたが、米国のミラント社(旧サザン・エナジー)に十六億三000万ドル(約一九五六億円)を払って、同社が持つBEWAGの株式を買い取ることを決定した。これによって、ヴァッテンファル社はBEWAGの株式の八九・六%、株主議決権の九二%を取得し、唯一の大株主となった。ヴァッテンファル社はすでにハンブルグの電力会社HEWを支配下に収めていたが、その狙いはハンブルグにとどまらず、HEWを橋頭堡として首都ベルリンと旧東ドイツに攻め込むことにあった。今回の決定でヴァッテンファル社は、HEW、BEWAG、そして旧東ドイツですでに支配下に置くVEAGLAUBAGの四社を「ノイエ・クラフト(新しい力)」と呼ばれる新会社に統合するという計画の実現に大きく近づいた。ノイエ・クラフトは持ち株会社を首都ベルリンに置き、二00三年に正式に始動する見通し。初代社長には、現在HEWの社長であるクラウス・ラウシャー氏が就任するものと予想されている。BEWAGの統合によって、ヴァッテンファル・グループは、ドイツで五五億ユーロ(約六0五0億円)の売上高、二万四000人の従業員を持つことになる。

‐自由競争の促進にも寄与

十二月三日にベルリンで記者会見に臨んだヴァッテンファル社のラルス・ヨセフソン社長は、記者団の前で喜びと安堵感を隠さなかった。「今回ミラント社と達した合意は、ドイツ市場で“新しい力”を結成する上で重要な一歩であり、大変満足している。ドイツの顧客は、新しいグループの誕生によって大きな利益を得るだろう。BEWAGを統合して、ベルリンをヴァッテンファル・グループの拠点の一つとすることは、我々の長年の夢だった」。ドイツ政府の連邦カルテル庁やEU委員会も、RWEEONという大手企業に比肩しうる新グループが誕生することは、競争の促進につながるとして、歓迎している。

‐ノーと言わせない買収価格

当初ヨセフソン社長は、BEWAGに同数の株式を持つミラント社をも参加させる形で、新電力連合を結成しようとしていたが、HEWの社長を新持ち株会社の社長にするという方針や、原子力発電所の扱いなどをめぐって、米国側と意見が対立し、今年九月にはミラント社との間で交渉が決裂したばかりだった。このためミラント社が突然ヴァッテンファル社の要求を受け入れたことは、ドイツの市場関係者を驚かせた。この裏には、ミラント社が今年夏にBEWAGの株式を追加取得するために支払った金額を四六%も上回る金額を、今回ヨセフソン社長が提示したことがあると見られている。実際ミラント社のマース・フュラー社長は、「当初BEWAGの株式を手放すつもりは全くなかったが、ヴァッテンファル社が我々に提示した金額は、とてもノーとは言えないほどのものだった」と述懐している。

‐ヴァッテンファルの拡大戦略

スウエーデン人たちは、なぜこれほどBEWAGに固執したのか。その背景には、資本参加によってヨーロッパ北東部の電力市場に積極的に進出するという、ヴァッテンファル社の長期戦略がある。たとえば同社は、ドイツの東隣のポーランドで長距離熱供給会社ECW(ワルシャワ)と電力会社GZE(クラカウ)を支配下に収めており、この国でトップクラスの電力供給者の地位を確保している。ヴァッテンファル社は、スカンジナビアだけでなくドイツとポーランドをホーム・マーケットと見なすことを公言している。中部ヨーロッパに位置するドイツは八二00万人、ポーランドは三八七0万人の人口を持つ。特に二00四年にはEUに加盟するポーランドでは、経済成長とともに二十一世紀に電力需要が急速に高まる可能性が強い。つまり、ヨセフソン社長がベルリンでの記者会見で「(今回の合意は)欧州電力市場のビッグ・プレーヤーになるという我々の長期的な目標を達成する上でも、重要な里程標である」と述べているように、同社は北東ヨーロッパを拠点として、欧州のエネルギー業界での影響力を高めることを狙っているのである。ヴァッテンファル社の拡大戦略は、めまぐるしく変化するヨーロッパの電力市場で、台風の目の一つとなることは間違いない。