大躍進!フランス車メーカー

米国とは違って、伝統的な自動車メーカーが次々に質の高い車を発表しているヨーロッパでは、日本の車はあまり人気がない。先日も、ドイツの友人たちと忘年会がわりにレストランに集まって、夕食をとっていたら、日本車が槍玉に上げられた。

*日本車とフランス車

知人のPさんは、かつてBMW社に勤めており、現在はフリーで自動車メーカーにコンサルティング業務を行っている。

それだけに、自動車業界の最新動向には、きわめて精通している。彼が言う。「日本車は、技術的には申し分ないのだけど、ちょっと面白みに欠ける。消費者の心をくすぐるような、プラスアルファの要素が足りないので、ヨーロッパではあまり売れない」日本の車について手厳しいPさんだが、彼は現在日本のあるメーカーの軽乗用車に乗っている。つまり、これは日本車に乗っているドイツ人ユーザーの率直な意見と言わねばならない。

それに比べると、Pさんのフランス車への評価は高かった。「フランスの車には、人生を楽しむ余裕というか、消費者をひきつける独創性がある。だからルノーはクレアテューア・ドゥ・オートモビール(自動車の創造者)と自ら名乗っているだろう」。彼の意見には、平均的なドイツ人が文化国家フランスに抱いている、漠然とした憧れのようなものが反映しているような気もする。

* ドイツ市場で躍進

だが、フランスの自動車メーカーが近年ヨーロッパで目ざましい躍進ぶりを見せていることも事実だ。ドイツ自動車工業会(VDA)の乗用車に関する統計によると、2001年にはドイツで認可されたドイツ車の台数は、前年に比べて0・9%しか伸びなかったが、フランス車は2・2%伸びている。この年、外国車はドイツ市場では不振で、認可台数が5%減少している。

ドイツで外国メーカーの車がふるわなくなってきた理由の一つは、旧東ドイツの所得水準が向上してきたことである。ドイツ統一後、所得水準が西側に比べて低かった旧東ドイツの市民は、安価な外国の軽乗用車を買った。

ところが、所得水準が上がるにつれて、旧東ドイツの市民も、ドイツの車に買い換える傾向が出てきたのである。さらにユーロが円やポンドに対して弱くなったことも、外国企業にとっては不利に働いた。

*気を吐くフランス車

このように、ドイツで外国車にとって強い逆風が吹いていた2001年に、認可台数が前年よりも増えた外国車は、フランスの車だけだったのである。ドイツで最もよく売れた外国車はフランス車で、2001年に約36万台が認可されている。

日本車の認可台数は21万台にとどまり、前年に比べて13%も減っている。トラックについても同じ状況で、2001年にドイツ製トラックの認可台数が4・7%減っているのに対し、フランス製のトラックは6・6%増えている。ちなみに日本製のトラックの認可台数は、24・7%も減少してしまった。車両全体で見ると、2001年にフランス車のドイツ市場でのマーケットシェアは10%となり、日本車をわずかに上回った。

つまり、ヨーロッパ最大の自動車市場であるドイツでは、フランス車が日本車などの外国勢に対して、どんどん水を開けているのだ。

*欧州の王者ルノー?

この傾向は、2002年度も続いている。フランスのルノー社は、ヨーロッパにたれこめる不況の暗雲にもかかわらず、2002年の上半期に乗用車と小型バン(ライト・コマーシャル・ビークル、略称LCV)を128万台販売した。

これは、前年に比べて1・3%の伸びを意味している。ルノーの販売台数の伸び率は、西ヨーロッパでは0・6%にとどまったが、東欧では14・8%、中欧では8・2%伸びている。

ルノー社によると、昨年の上半期にヨーロッパ全体の乗用車とLCVの販売台数は前年比で4・8%減少したが、ルノー社のこの車種に関するマーケット・シェアは11・5%で、首位を守り通した。乗用車市場では、シェアを10・9%、LCV市場では、シェアを16・3%に増やしたという。なお、同社はフランスの乗用車・LCV市場でも29・3%という高いシェアを維持している。

アジア・太平洋地域では、ルノーの販売台数は9409台とまだ少なかったが、前年に比べると69%増やしている。中国では実に207%もの伸びを記録している。

ルノーの売り物は、なんといってもメガン、エスパース、カングーといった、乗用車とミニバンを組み合わせた、新しい発想のクルマだろう。乗用車並みの大きさだが、4ドアでバンのように天井が高いので、乗りやすいし、ゆったりとした印象を与える。

荷物もたっぷり積めるので、家族でドライブしたり、買い物をしたりする時には、もってこいの車である。これらの車のコマーシャルも、斬新で若者の心にアピールする演出が行われている。

*VWを追い落としたプジョー

さてルノー以上に快進撃を続けているのが、PSAグループに属するプジョー社である。自動車部門に関する市場調査会社・DRI社は、毎年西ヨーロッパで最も多く売れた車種のランキングを発表している。

ドイツ市場では、これまで30年間にわたり、フォルクスワーゲン(VW)社のゴルフが、首位を保ってきたのだが、2002年になって初めて、プジョーの軽乗用車206型によって、王座を奪われたのだ。軽乗用車であるにもかかわらず、スポーツカーのような流線型の車体を持ったこの車は、たしかに斬新なデザインで、最近ヨーロッパの町で目立つ存在だ。

DRIの調べによると、昨年のプジョー206型の販売台数は、60万1000台で、VW社のゴルフの58万台をわずかに上回った。2002年には販売台数が前年比で3・5%減少しているが、ゴルフは12・9%と大幅な減少率を示している。

これに対しプジョー260型の減少率は、3・8%にとどまっている。さらにプジョー307型は、販売台数が18万8000台から、42万9000台と、129%もの驚異的な伸びを見せている。

実際、DRI社の「2002年に西欧で最もよく売れた車」のリストを見ると、25位までの中にフランスの車は8車種も入っている。

日本の車は、わずか1車種にすぎない(トヨタのヤリス・日本名は不明・第21位)ヨーロッパの大手自動車会社で、2003年の上半期に、販売台数とマーケット・シェアを伸ばしたのは、プジョー社を抱えるPSAグループと、ルノーだけだったと言われる。

*魅力的な新モデルを投入

なぜ2002年にフランス車は好調だったのか。欧州の自動車専門家によると、フランスのメーカーにとってこの年は、モデルチェンジによって、斬新で魅力的なモデルを市場に投入する時期となった。これに対しゴルフは、モデルチェンジが行われておらず、消費者に飽きられてしまったのが、販売台数の大幅な減少の理由と見られる。ゴルフの新型は今年秋にならないと登場しない。

新しいモデルの開発には、長い年月と多額のコストがかかる。こう考えると、自動車メーカーにとっては、モデルチェンジのサイクルを短くすることによって、魅力的な車種を次々に販売し、移り気な消費者が他の車に飛びつかないようにすることが、きわめて重要であることがわかる。さらにヨーロッパの自動車市場では、軽乗用車の部門での競争が最も激しくなっている。

その理由は、不況のために、値段が手ごろで、ガソリン代や保険料、車両税も割安な軽乗用車が好まれるということであろう。ルノーからやってきたカルロス・ゴーンが、日産自動車の再建で成果を上げたように、フランスの自動車メーカーは、ヨーロッパ市場でも着々と地歩を固めつつあるのだ。

 

2003年1月22日 自動車保険新聞