失敗に終わった?ドイツのエネルギー市場自由化

 

 今年9月1日、ドイツ政府は分厚い報告書を連邦議会に提出した。連邦経済労働省が作成したこの報告書には、「エネルギー業界の競争に連盟間合意がもたらした効果についての報告」という長い題名がつけられている。

* 連盟間合意の有効性を分析

1998年に電力・ガス市場を自由化するにあたり、ドイツ政府は、他のEU諸国と異なり、専門の監督官庁を設置するのではなく、電力会社やガス供給会社と製造業界の経営者団体が、送電網の使用方法、新規企業の参入などについて、自主的な合意を行うという形を取ってきた。政府に法律でがんじがらめの規制を受けるよりは、民間活力を生かした方が時間やコストが低くて済むという、ドイツの財界がよく使う論理である。政府が発表した報告書は、この連盟間合意が自由化を本当に促進したかどうかについて、分析したものである。

* 託送料金の透明性を要求

まず電力市場について、報告書は「連盟間合意は、連邦カルテル庁の監視措置とともに、当初大口需要家や個人向けの電力料金を引き下げる上で重要な役割を果たした」と述べ、一定の評価を与えている。ただし、2001年からは環境税や再生可能エネルギー促進税などの影響で、電力料金が再び上昇していると指摘し、国家の介入によって自由化の効果が減殺されていることにも触れている。さらに、託送料金の計算方法については、より透明性を高めることを求めている他、顧客が電力供給者を切り替える時に、不利益が生じないような枠組みを作り、競争をさらに促進するべきだと訴えている。

* ガス市場自由化は不十分

これに対し、ガス市場についての批判は一段と厳しい。報告書は、「ドイツはガス供給の80%を輸入に頼っているという構造的な原因もあり、その自由化は電力ほど進んでいない」と指摘。そしてガス業界は、新規参入企業が送電網を使用するための、効果的な枠組みを積極的に作ろうとしておらず、経済労働省はこの点に自由化の遅れの原因があると批判している。ドイツ政府が2004年の半ばまでに、電力・ガス市場の自由化の進捗状況を監視する機関の設置を決めた背景には、特にガス業界の努力を政府が不十分と判断したという事実がある。政府は、この機関を独立の官庁として新設するのではなく、電気通信と郵便事業の自由化を監視している官庁(RegTP)の中に置く方針を固めている。

* 消える新規参入者

政府が規制機関の設置を決めたことは、過去5年間の自由化政策が失敗だったことを自ら認めたことを意味する。実際、政府が「比較的自由化が進んでいる」とする電力市場でさえ、新規参入業者は次々に姿を消している。今年9月初めには、ベルリンの電力会社BEWAGの子会社で、割安の電力を販売することをキャッチフレーズにしてきたベスト・エナジー社が多額の損失を抱えて、経営難に陥っていることが明らかになった。BEWAG社が属するヴァッテンファル・グループは、ベスト・エナジー社の売却をあきらめ、解体する方針と見られている。1999年に設立されたこの会社は当初100万人の顧客に電力を販売することをめざしていたが、実際の顧客数はその5分の1にとどまっていた。

この国では電力料金も上がる一方で、ドイツ電事連によると家族三人の家庭が毎月支払う平均電力料金は、今年初めには46ユーロ(約5980円)だったが、今年末には50ユーロ(約6500円)に上昇すると予想されている。ドイツでは猛暑による電力不足の懸念や米国東部の大停電の教訓から、「電力の安定供給を確保するという観点からも、自由化を完全に民間の手に委ねるのではなく、規制当局の監視の下に置くべきだ」という意見が有力になりつつある。規制当局が設置されてから、エネルギー業界の競争に拍車がかかるかどうか。実体を伴う自由化はこれからが本番と言えるかもしれない。

電気新聞 2003年10月1日号掲載