電気新聞 2002年8月28日号掲載  再生可能エネルギーの行方

                                                          熊谷 徹

ドイツの北のさいはて、シュレスビヒ・ホルシュタイン州。人家も樹木もない荒涼とした海岸に、真っ白に塗られた風力発電用のプロペラが林立している。この地域は、一年中北海からの強い風が吹きつけるために、風力発電には適しているのだ。北ドイツの平原地帯を旅行すると、巨大なプロペラが回転しているのを見るのは、もはや珍しくない。特に一九九八年に社民党・緑の党による左派連立政権が誕生して以来、この種の再生可能エネルギー施設は、強い追い風を受けている。

今年七月十日にドイツ政府は、二年前に施行された再生可能エネルギー促進法(EEG)の効果に関する初めての報告書を発表した。この報告書によると、電力消費量の中に再生可能エネルギーが占める比率は、一九九八年の五・二%から、二00一年には七・三%に増えた。政府は、二0一0年に再生可能エネルギーによる電力の比率を、十二・五%に引き上げるという目標を、達成できる見込みが強いとしている。さらに、この報告書の作成で中心的な役割を果たした連邦環境省は、「二十一世紀の半ばには、ドイツの電力消費量の約半分を、再生可能エネルギーでまかなう」という、環境政党・緑の党の影響を感じさせる、野心的な目標を掲げている。

EEGは、再生可能エネルギーによって生み出された電力に補助金を出す制度だ。たとえば、ある企業が太陽発電システムを今年中に稼動させれば、地元の送電網に送りこむ電力一キロワット時につき、四八・一セント(約五七円)の補助金を政府から受け取ることができる。このため、ドイツでは再生可能エネルギーによる発電能力が増えており、たとえば太陽発電の分野では、二00一年に七九メガワット分の追加発電能力が生まれた。これは、前年のほぼ二倍に相当する。ドイツ政府は、「太陽電池による発電能力では欧州で一位、日本に次いで世界第二位の座についた」と主張している。また風力発電の追加発電能力も、二00一年には前年より五六%増えて、二五00メガワットになった。

ドイツ政府は、「EEGの施行によって、再生可能エネルギー市場が活性化されたために、十二万人分の雇用が創出され、三五00万トン相当の温暖化ガスが放出されるのを防ぐことができた」と新制度の成果を強調する。さらに、連邦環境局の委託で学識経験者が行った研究に基づき、「有害物質による長期的な環境被害、気候変化による悪影響などの外部費用を考慮にいれると、EEGの施行によって、二00一年にはドイツ経済全体で二五億ユーロ(約二九五0億円)の節約効果があった」と主張している。

さらに、今後も民間企業の再生可能エネルギー市場への投資や参入、研究開発を促進するためには、引き続き政府の補助金が不可欠であると結論付けている。

だがこのことは、政府の援助がなければ、再生可能エネルギーは民間企業にとって魅力がないということをも意味している。さらにEEGの補助金は、最終的には電力料金の請求書が高くなるという形で、われわれドイツの消費者が負担させられている。環境税やEEGとKWK(熱電併給施設促進法)のための費用が電力料金に上乗せされているために、個人顧客には自由化によって電力価格が下がったという実感が湧かないのも事実だ。

ドイツ電力事業者連合会(VDEW)は、「電力業界、そして顧客は二00一年に十五億ユーロ(約一七七0億円)もEEGのための補助金を負担させられた。再生可能エネルギーによる電力の供給安定性を確保するためには、送電網の拡充などが必要だが、そのためには、補助金の額がさらに増える可能性がある。再生可能エネルギーの促進は、ドイツ社会全体に関わる課題なのだから、この費用を、電力需要家だけに負担させるのは不当であり、補助金は、通常の国家予算から捻出するべきだ」と主張している。さらにVDEWは、再生可能エネルギーが中期的に補助金を必要とするこという政府の見解には理解を示しながらも、政府の報告書には、この分野を長期的に補助金なしで自立させるためには、どのような努力が必要かという観点が欠けていると、批判する。

発電量の三0%を占める原子力、二七%を占める褐炭には、再生可能エネルギーの比率・七%は、遠く及ばない。この分野が国家の支えなしで歩けるようになるまでには、まだかなりの時間がかかりそうだ。