移民法にも国際テロの影

ヨーロッパに外国人として住んでいる私たちにとって、欧州諸国の移民政策がどう変化するかは、重大な関心事である。

残念なことに、2001年9月11日にニューヨークで世界貿易センターのツインタワーを崩壊させた、イスラム過激派のテロ攻撃は、ヨーロッパの移民法・外国人政策にも大きな影響を及ぼしている。

たとえばドイツのシュレーダー首相が2000年の2月に、移民政策の見直しを提唱した時、最大の目的は、インドからの
IT専門家のように、ドイツ経済が必要とし、自力で金を稼いで税金や社会保険料を払う外国人を、積極的に導入することだった。そこには、世界中から優秀な頭脳を集める米国の外国人受け入れ政策に、ドイツの制度を少しでも近づけるべきだという経済界の希望が反映していた。

出生率が1・4前後で、毎年新生児よりも死亡する人の数が多いドイツは、移民を外国から受け入れなくては、社会保障制度や経済競争力を長期的に維持することができないのである。

ところが、9・11事件によって、移民法をめぐる議論の重点は、テロリスト予備軍をいかにしてドイツから排除するかという問題に移ってしまった。今年7月1日に連邦議会で可決された移民法改正案には、そのことがはっきり表れている。

政府は将来、テロ行為に走る恐れがあると判断された外国人については、これまでよりも迅速に国外退去させられるようになる他、送還先の国で死刑や拷問の恐れがあるために、退去させられない場合には、これまで以上にドイツでの行動の自由を制限し、監視を強化できるようになる。

また外国人局は、無期限の滞在許可や帰化を申請する外国人については、特段の容疑がなくても、憲法擁護庁に照会することが許される。ドイツは、9・11事件を起こしたアル・カイダのテロリストたちを留学生として受け入れ、図らずも重要な「出撃拠点」となってしまった。

また殺人扇動の罪で禁固四年の刑を受けた、トルコ人の過激なイスラム教指導者カプランが、この国の司法制度を悪用して国外退去を免れてきた問題も、外国人に対する監視強化を避けられないものにした。テロリストの潜伏を防ぐことは、勿論重要だ。

だがドイツ政府は、外国人の権利が米国のような超法規的措置によって、恣意的に制限されることを防ぐような「法的な安全装置」も、きちんと設けてほしいものだ。

週刊 ドイツニュースダイジェスト 2004年7月23日