イラク主権回復と独仏のジレンマ

 イラクを支配していた連合国暫定当局(CPA)が、6月28日に国家主権をイラク暫定政権に委譲したことで、形式的には米国のイラク占領は終わった。

しかし、
CPAが大規模なテロを恐れて、主権の委譲を予定よりも2日早め、盛大な式典もなく、任務を終えたことは、イラクの治安がいかに悪化しているかを象徴している。13万人を超える米軍など多国籍軍の駐留が必要であることにはかわりなく、引き続き不安定な状態が続いている。

イラク政府にとっては、治安の回復と電気・水道・病院などインフラの構築が最優先の課題であろう。米国は、バグダッドに世界最大の大使館を置き、今後も影響力を行使しようとするだろう。イラク政府が、多国籍軍の行動にストップをかけることが法的に認められていない点を見ても、そのことは明らかだ。

米国が最も恐れていることは、スンニ派、シーア派、クルド人が反目しているこの国が、内戦状態に陥り、タリバン政権下のアフガニスタンのように、テロリストの隠れ家と化すことである。国境の警備がおろそかになり、旧軍の武器弾薬が、事実上の野放し状態になっているイラクは、アル・カイダなどのテロ組織が増殖するのに、格好の温床である。だがイラクの「アフガニスタン化」を防ぐには、13万人の米軍だけでは足りない。

ブッシュ政権が国連だけでなく
NATO(北大西洋条約機構)に対しても、本格的な関与を求めているのは、そのためである。今後、苦しい立場に追い込まれるのはドイツとフランスである。独仏にとって、イラク戦争はブッシュ政権が国際法に違反して始めた戦争である。

このためシラクとシュレーダーは、違法な戦争を追認することを避けるために、多国籍軍に自国の軍を参加させることは、建前上避けたいところである。しかし、イラクで内戦が発生し、テロリストの巣窟となるのを防ぐという国際社会の目的は、アル・カイダに対する「対テロ戦争」を支援している独仏政府にとっても、重要である。ドイツ政府は、イラクの警察官などを国外で訓練する準備があるとしているが、それが十分でないことは誰の目にも明らかだ。

イラク復興が順調に軌道に乗れば、独仏は門外漢を決め込んでいられるが、治安が悪化した場合、独仏は「イラクを見捨てた」と非難される恐れもある。米国の行政官がバグダッドを後にした今、独仏も今後は徐々にイラク支援の度合いを強めていく可能性が強い。


週刊 ドイツニュースダイジェスト 2004年7月10日